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第609話 泰介side

「ん······」 目を覚ますと知らない天井が見えた。 あれ、ここ、どこだっけ。 体を起こそうとすると、体の至る所から痛みが走った。 「っ!」 咄嗟に動きを止めて、痛みが治まるのを待つ。 部屋を見渡すと誉先輩が居て、漸く先輩と何をしたのかを思い出した。 「先輩っ!」 「あ?······起きたのか。体、辛いか?」 先輩が長い足で歩いてくる。 上半身をゆっくり起こすと、背中をそっと支えてくれた。 「痛い?」 「······痛い、です。」 特に項が。 ジンジンと熱を持っていて、そこに触れると大きな絆創膏が貼られてあった。 「強く噛みすぎて血が出た。ごめん」 「え、いや、大丈夫です。」 そうか。 俺、この人の番になったのか。 そう自覚すると嬉しくて、自然と頬が緩む。 「······あんまりそんな匂いをさせるなよ」 「え?」 「お前が喜んでるのがわかる。これも運命の番だけらしいな。」 「何のことですか?」 意味がわからなくて聞くと、大きな手が俺の頬を掴む。むにっと唇が突き出て、きっと不細工な顔をしてる。 「なんでもない。それより、名前で呼べとも、敬語は要らないとも言ったはずだが。」 はっとして目を軽く見開くと、手が離される。 「まあ、今のままが楽ならそれでいいけど。」 「ぃ、いや、呼びます!······あっ、違う!呼ぶ!呼ぶし、敬語ももう使わない!」 「うん、それでいい。」 頭を撫でられて、胸がドキドキする。 うわぁ、すごくキスしたい。 そう思ってると誉君と目が合って、そっと唇にキスされた。 「へっ!?」 「キスしたいって顔してた」 「······恥ずかしい」 顔が熱い。 顔を伏せると、誉君に手を掴まれる。 「俺にして欲しいこととか、やりたいこととかあったら遠慮なく言って。できることは全部する。」 「······ありがとう?」 何でそんなこと言うんだろう。意図がわからなくて首を傾げると、困ったように笑った誉君にまたキスをされた。

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