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第610話
時計を見るともう夜になっていて、驚いている俺とは裏腹に、誉君はキッチンに立って「何が食べたい?」と聞いてくる。
「いや、えっと······俺、寮に帰ります」
「は?何言ってるんだ。お前は今日からここに住む」
「え?」
固まってると、誉君がスマートフォンを操作して俺の前に差し出した。
そこには運命の番と出会ったら、なんてタイトルのページが開かれている。
「運命の番はできるだけ傍にいる方がいい。番になったなら余計にな。久しぶりに会って俺がお前を抱き潰してもいいなら、別で住んでもいいが。」
「だ、ダメ!」
抱き潰すなんて無理。
正直さっきまでのえっちも、気持ちよすぎて殆ど覚えてない。
······でも、不安に思うことがある。
「誉君······」
「うん、何?」
スマートフォンを返して、立っている誉君をじっと見る。
「俺は迷惑にならない?もし、誉君の迷惑になるなら、部屋に帰る。」
「······ならない。むしろ出て行かれる方が迷惑。俺の体が泰介を求めてるから。」
そこはやっぱり体だけなんだなぁと少し寂しく感じながら、コクっと頷いた。
「で、何が食べたい?」
「うーん······オムライスとか?」
「ふわふわとろとろのやつか」
「わぁ、それは最高!」
嬉しくてぴょんと跳ねると、腰に痛みが走ってソファーから落ちた。受身を取れなくて顔から床に激突する。
「泰介!?」
「〜〜っっ!」
激痛が顔に走って、慌てて両手で押さえる。
誉君が俺の背中を撫でて「痛かったな、冷やそうな」って優しく言ってくれるのは嬉しいのに、返事ができない。
「い、いたいぃぃ······」
「よしよし、おいで」
抱き締められて、そのまま誉君の胸に顔を埋める。
涙が滲んで誉君の服を濡らす。
頭を撫でられて、顔を上げると誉君と目が合う。
「俺の鼻、ちゃんとついてる?」
「ついてるよ」
「歪んでない?」
「うん」
誉君はくすくす笑って「冷やすの持ってくる」と言ってキッチンに消えた。
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