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第613話
許可書が無いからと、誉君は寮の前で待っていてくれるらしい。
寒い中待っていてくれてるんだから急がないと、と思って大きなリュックに着替えを沢山詰め込んだ。
「あっ!教科書とかも持っていかないと······!」
でも荷物が多くなっちゃう。
とりあえず今日は明日の分を持って行って、明日に明後日の分を取りに行けばいいか。
教科書の事を考えたのはいいけど、それでも荷物が多くて、「よいしょ」と言いながら背中にリュックを背負い、両手に教科書や学校で使うバッグを持つ。
「戸締りしたし、電気も消した。よし!」
急いで建物の前まで走ると、誉君が両手にハーっと息を吹きかけて温めているのが見えた。
「誉君!」
「ん、おかえり。」
誉君はすぐに、俺が手に持っていたバッグを取って肩にかける。
手が空くと、来た時と同じようにキュッと握られて、ポッケの中に収まった。
「······寒かったでしょ。ごめんなさい。もっと急げばよかった」
「十分速かったけど。急いでくれたんだろ?ありがとう」
ふんわりと誉君から甘い匂いがした。
その匂いが鼻腔を掠めると、頭の中がとろんとする。
「誉君······」
「ん?」
足を止めて、ぼんやりと誉君を見る。
「泰介?どうした?」
そのまま動かないでいる俺を、誉君は心配そうに見てきた。
「匂いする。甘い匂い。誉君の匂いだ」
「うん」
「俺の好きな匂い。さっきまでしなかったのに何で?」
「······さっきも言っただろ。運命の番だからだ。運命の番はお互いの感情が匂いでわかるんだ。」
驚いて目を見開いた。
俺本当、なんにも知らないや。
「え······じゃあ、俺の思ってること、誉君には筒抜けなの?」
「細かいことが分かるわけじゃないみたいだな。ただ相手が喜んでるのか、悲しんでるのか、そういう事がわかる。」
「あ、よかった······。」
全部筒抜けだったら恥ずかしいから、すごく安心した。
「よかった?何で?」
「だって恥ずかしいんだもん。」
「そうか?偉成達はそんなことひと言も言ってなかったけどな。」
赤目先輩と千紘先輩のことだ。
あの2人も運命の番なんだ。
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