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第620話

黙って後ろをついてきた泰介が、テーブルに並ぶ料理をちらっと、見ると急いで顔を洗いに洗面所に走って行った。 スッキリした様子で戻ってくるとすぐに、席に座って手を合わす。 「いただきます!」 さっきまでは細く小さい声だったのが、今はハッキリとしたうるさいくらいの大きさに変わり、呆れながらも泰介の前の席に座り、俺も手を合わせて食事を始める。 「あ、誉君。俺今日帰ってくるの遅いかも。ちょっと外に出かけてくる」 「そうなのか?······まさかとは思うが、真子に会うつもりは······」 「無いよ。今のところはね。」 「······今は納得できないから反対すると思うけど、いつかお前と真子が会ってても、どうにも思わないようになるつもりだから、会う時は会うって言ってほしい。」 いつか来るかもしれない先の事を懸念して、思ったことを言うと泰介は大きく頷く。 「うん、会う時は伝える。でも今日は本当に違う用事だから安心してね。」 「わかった。晩飯は?」 「それまでには帰ってくるつもりだよ」 もし1人なら、寮食でも食べるかと思ってたけど、帰ってくるならちゃんと作ろう。 「そうか」と返事して用意していたコーヒーを飲み、空になった皿を片付けようと立ち上がる。 「洗い物は俺がするから置いといてね」 「いいよ」 キッチンで皿を洗い、すぐに席に戻った。 泰介は俺ばかりが家事をするのが気に入らないらしい。 自分も手伝うと率先して動いてくれようとするのを俺が毎回止めているせいだが。 やんわり拒否するとムッとした表情を見せる。それには何も言わず、ただ苦笑を返した。 番になったからだろうか、オメガである泰介に尽くすことで心が喜ぶ。 ただ俺の場合は、純粋にそれだけではなく、罪悪感を少しでも薄くしたいという理由もあるのだが。 「誉君は俺を甘やかしすぎ。優しいのは元から知ってるけど、ここまで甘やかされるとは思ってなかった。······番になる前はそんなこと無かったのに。」 「番になったからだろ。俺のオメガなんだ。甘やかしたいに決まってる。」 考えるより先にそんな言葉が口から零れていた。 咄嗟に片手で口元を覆い、泰介から顔を逸らして俯く。 少しだけ顔が熱い。そして、恥ずかしい。 その熱と気持ちが落ち着いて、手を離し顔を上げると、真っ赤になって目を見開き固まったままの泰介とバチッと目が合った。

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