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第622話
準備を終える頃に泰介が部屋にやってきて、服を着替えて歯磨きをし、一緒に寮を出る。
「誉君は卒業したら家を継ぐの?」
「ああ。」
「······俺、誉君のご両親に挨拶しないといけないね。」
「それは俺もだよ。ちょうど今朝考えてた。時間を設定したいから、夜にそれも話そう。」
寮から校舎までの距離は朝の散歩には丁度いい。
会話をしながら歩けば、すぐに校舎に着くし、寒さも少し薄らぐ。
放課後、どこかに出かける泰介は目的地こそは言わないが、そこが初めて行く場所だと教えてくれた。
「何かお土産買ってくるね!」
「別にいいよ。今度一緒に連れて行ってくれたら」
「······うん、わかった。」
泰介が何故か少し照れていて、顔を背けるから意地悪くもその顔を覗き込んでやった。
「わっ!」
「何を照れてるんだ?」
「······誉君は無自覚で嬉しい事を言ってくれるから、意識しちゃうのが恥ずかしい······。」
「今嬉しい事を言ったのか?俺が?」
コクっと頷いて返事をされる。
たしかに自覚は全く無いな。
校舎に入り、泰介を1年の教室にまで送る。
それは番になってからほぼ毎日していること。
体が泰介から離れたくないと、勝手に動いてしまう。······まあそれは、最近では体だけではなくなってきているのだけど。
「放課後、どこ行くか知らないけど気を付けろよ。」
「うん!」
にっこり笑ったその顔に安心して、手を伸ばし泰介を引き寄せてキスをする。
「っ!」
「じゃあな」
真っ赤になっている泰介の頭を撫でて、自分の教室に向かう。
その廊下の隅から、嫌な視線が泰介に向いていることに気が付かなかった。
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