その日の昼休み。 俺は今日、学校が終わったら何をしようかと頭を悩ませていた。 帰ってもやることが無い。俺もどこかに出かけようか。 「高梨ー！1年が呼んでる！」 「1年？」 ぼんやりとしているとクラスメイトに呼ばれ、廊下に出れば「先輩！」と言って小さな1年が駆け寄ってきた。 少し、泰介が来たんだと期待していたから、正直ガッカリしてしまう。 けれどそれを見せないように、「誰だ」と言えばそいつはにっこり微笑んだ。 「1年の丘咲(おかざき)です。」 丘咲の首には首輪が着いていた。 「あの、1年の渡君と番になったって本当なんですか？」 「······お前に何か関係あるのか？」 「いえ。あの······俺も先輩の事好きだったので······」 モジモジしながら俯いて、段々と声が小さくなっていく。 「もし、渡君が発情期になって、それで無理矢理噛まされたなら······」 「そんなことは無い。それに噛まされたって表現はおかしいだろ。俺が無理矢理噛んだならまだしも」 「だって先輩はそんなことする人じゃないと思います」 ······何なんだろう、この時間は。 初めて会った1年に、泰介との事を聞かれるのは気持ち良くない。 面倒臭くなって「もういいか？」と聞くと丘咲は頷いて、俺はスっとその隣を通り過ぎ、泰介に会いに行くことにした。 1年の教室がある階に行くと、何やら騒がしい。 廊下で会った奴らは、驚いた様に目を見開いて泰介のいる筈の教室に走って行く。 不思議に思いながらも、泰介の教室を覗けばいつもの様に、泰介は教室の隅で1人でポツンと座っていた。 このクラスはいつまでも子供のように性別での差別を続けるらしい。 「泰介」 廊下から名前を呼べば、いつもはすぐに気付くはずなのに、返事をする事も振り返ることもしない。 痺れを切らして教室に入り、泰介の肩に触れる。 大袈裟に肩を跳ねさせた泰介は、恐る恐る顔を上げて、俺を見るとホッと表情を緩ませた。