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第624話

「誉君、どうしたの?」 いつもと違う笑い方。 引きつったように口角を上げる。 何かを気にして視線を忙しなく動かし、あまり俺を見ない。 誰かに何かをされたのか、もしくは居心地の悪い此処が苦しいのか。何があったのかは知らないが、泰介のその様子を見て腹の底から沸々と怒りが湧いてくる。 それをいち早く察した泰介は、顔色をサッと変えた。 「っ!ほ、まれくん、怖い······っ」 「······誰に何をされた」 いつの間にか騒がしかった音はひとつも無くなった。 「怖い······やだ、やだ······」 「怖くない。答えろ。誰に何をされた」 泰介の目が潤み、首を左右に振る。 じっとそれを見ていると「あの······」と控えめに声をかけられ、そっちに目を向けた。 「何だ」 「よかったら俺が話しますよ」 「······いい。俺は泰介から聞く」 泰介に視線を戻すと、遂に泣き出してしまって、慌てて気持ちを落ち着ける。 「泰介」 「······怖い、誉君が······怖いから、嫌だ。」 一切目を合わせようとしない泰介。 胸がキュッと苦しくなる。 「悪い。······なあ、俺の事見て。」 「嫌だ、怒るもん。怖い匂いがまだちょっとするもん。」 「怒らない。匂いは······それは、どうしようもできないけど、お前に怒ってるんじゃない。」 床に膝を着いて、泰介を下から見上げる。 手を掴むと漸く、ゆっくりと目を合わせた。 「ごめん。どうしても何があったのか知りたかった。泰介がいつもと違うくて、気になった。」 「······誉君」 「うん、何?」 手を伸ばして、頬に流れる涙を拭ってやると、その手に擦り寄ってくる。 「何でもないの。ちょっと、疲れてただけ。大丈夫だよ」 「······言いたくないのか」 「······お願い誉君。」 これ以上聞かないでくれと、言葉こそは言わないが強く伝えてくる。 「わかった」 仕方なくそう言って、泰介の頬を撫で、そのまま引き寄せてキスをした。 途端、胸を強く押し返されて、泰介は俯いたまま首を振る。 「誉君ごめんね、今ちょっとやっぱり、疲れてて······」 「······それなら、放課後はすぐに帰ってきた方がいいんじゃないか。」 「ううん。行ってくる。大丈夫だから、ごめんね。」 泰介に教室から追い出されて、俺は暫くそこに呆然と立っていた。

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