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第627話
ドアを閉めて、泣き出したくなるのを堪え俯いていると、肩をトン、と叩かれる。
振り返れば森君がいて、気まずそうに合った視線を逸らした。
「······悪い。俺が朔夜 に······丘咲に、お前と高梨先輩が番になったみたいだって伝えたから······。」
「······別に」
さっき助けてくれなかったくせに、謝られたって何も思わない。ただ、狡いとしか感じない。
「高梨先輩に言わないのか······?」
「言ったら何かされるみたいだし、そもそも誉君に迷惑は掛けれないよ。」
「······迷惑じゃないと思うけど」
森君を睨みつけて、席に戻る。
誉君に嫌な態度とっちゃった。
嫌われたらどうしよう。
不安になりながら席に座り、机に伏せる。
放課後、出かけないといけないのに気分が上がらない。
でも、誉君には行くって言ってしまった。
こんな気持ちで会いに行く予定じゃなかったのに。
チャイムが鳴って授業が始まる。
顔を上げて、号令に従い立ち上がり礼をして座った。
窓の外をぼんやりと見ているうちに時間は過ぎていく。
すぐに放課後になって、急いでバッグを持って走る。
それを引き止めるように、目の前に同じ背丈くらいの子が立ちはだかった。
「渡だよね?」
「え、あ、はい。······あの、ごめんなさい。俺ちょっと用があって、話なら明日······」
「は?何生意気なこと言ってんの?」
ドンっと肩を押され、予測していなかった力に対処出来ずに尻もちをつく。
「朔夜!やめろ!」
「辰明は黙っててよ。何の役にもたってくれないんだから、せめて邪魔をしないで。」
あ、この人が丘咲君か。
そんなことよりも時間が気になって時計を見る。
「ごめんね、やっぱりどうしても時間が無いから······」
「誰もお前の話は聞いてないよ」
胸倉を掴まれて強く引かれる。
「高梨先輩に纏わりついて、番になったんだって?そんなの先輩にとって迷惑だって考えなかったわけ?先輩は優しいから言わなかったけど、どうせお前が無理矢理噛ませたんでしょ?」
「なっ······!そ、そんな事してない!」
無理矢理噛ませるなんて、そんなことするわけない。
驚いている内に、胸倉から手が離れ、かと思えばいつの間にか全身がびっしょりと濡れていた。
「え······」
丘咲君の後ろには、昼休みにも見た他のクラスのオメガ達が立っていて、空っぽのバケツを俺に投げつけた。
水をかけられたんだとようやく理解して、体が寒さで震え出す。
「迷惑かけてすみませんでしたって、先輩に謝って早く番を解消しな。」
「······」
オメガ達は消えていって、俺は床に座り込んだまま。
「渡······」
森君が声を掛けてくるけど、グッと唇を噛んで立ち上がる。
床に落ちていたバッグを持ち直して、教室から走って外に出る。
寒い。
寒くて、寒くて、凍えそう。
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