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第629話

「真緒さんの所にいる」 電話の向こうでガタッと音がした。 誉君は暫く何も言わなくて、それでも少しすると「わかった」と返事をくれる。 「今から迎えに行く。動かずに待ってろ。」 「······うん」 電話を切って、また真緒さんに向き直って、無理矢理に笑ってみせる。 「誉君は本当に優しい人ですね。俺と番になったのも殆ど事故で、運命の番じゃなかったら、一生······誰も番にならなかったと思う。でも誉君は俺に優しくしてくれるんです。真緒さんのことも俺のことも考えて、傷付けないようにしてくれる。」 悴んだ手を伸ばして、墓石に触れる。 「俺は、誉君に幸せになってもらいたいです。誉君には幸せになる権利があると思うから。」 体が大きく震え出した。 寒くて手に息を吹きかけたけど、あまり効果はないや。 どれくらい時間が経ったのか分からないけれど、真緒さんとずっと話をして、眠たくなってきた頃に肩に手を置かれた。 「帰ろう」 振り返ると誉君が居て、手の温かさにビックリする。 「誉君······」 「帰って早く温まらないと。すごく冷たい」 伸ばされた手を掴んで引き寄せる。 「真緒さんに、挨拶、していかないと······」 「······」 誉君は俺の隣にしゃがみこんで、真緒さんに向かって手を合わせる。 痛み出した頭。額を押さえながら誉君を眺めて、少しすると誉君は顔を上げ、着ていた上着を脱いで俺の肩に掛けてくれた。 「早く帰るぞ」 「······誉君」 「ここに居ることについては怒ってない。きっと真子から場所を聞いたんだろうって予想もできてるけど、別にそれは怒ることじゃない。俺が今少しムカついてるのは、濡れたまま長時間こんな寒い所にいるってことだけだ。」 そっと立たされて、抱きしめられる。

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