630 / 876

第630話

フワッと体が浮いて、抱っこされてることがわかって、誉君の首筋に顔を埋める。 「寮までは遠いか······」 そう呟いた誉君は、どこかに電話を掛けながら駅まで歩いて行く。 「ああ。だからそこまで車を回してほしい。タオルの用意と、暖房もつけて温めておいてくれ。」 電話を切って、着いた駅でやってきた電車に乗った。 座席を濡らしてしまうから、俺は立っているって言ったのに、誉君は自分の膝に俺を横抱きにして座らせる。 「誉君が濡れちゃう」 「いいよ。大丈夫だから気にするな」 誉君の言葉に甘えて、そのままもたれ掛かる。 頭痛は少し和らいで、誉君の匂いを嗅ぐと心も落ち着いた。 しばらく電車に揺られ、重たくなってきた瞼を閉じようとすると誉君に止められる。 「次で降りるから」 「······まだまだ学校の駅じゃないよ?」 「うん。今日帰るのは寮じゃない。」 駅に着いてドアが開く。 誉君に抱っこされたまま電車を降り、改札を出て、どこかの出口に向かう。 どこに行くんだろうと不思議に思っていると、高級車に乗せられた。 「タオルは」 「こちらにあります」 誉君が誰かと話しをしてる。 ぼんやりしているうちに体にタオルを巻き付けられた。 車内も暖かくて、隣に座る誉君に凭れて襲ってきた睡魔と戦うことなく目を閉じる。 「風呂は用意出来てるか?」 「はい。」 誉君の膝に頭を乗せて、優しく髪が梳かれるのを感じながら眠りに落ちた。 *** 体がポカポカして、すごく気持ちいい。 優しく体を撫でる手を掴んで目を開けると、誉君が俺を見て微笑んでいた。 「起きたのか?」 「······誉君」 「あまりに冷えてたから、風呂に入れてる。」 ああ、なるほど。 だからこんなに温かいのか。 「······ん?風呂?」 「ああ。」 裸、見られてる。 それに気がついて顔に熱が集まっていく。 「あ、あの、ごめんなさい、寝てしまって······っ!」 「大丈夫」 頬を撫でられて、思わずビクッと肩が震える。 恥ずかしい。 情けない姿を見せたことも、こうして裸を見られてることも。 「何も不安に思わなくていい。大丈夫だから、安心しろ。」 学校のことも言われているんだとわかって、やっぱり恥ずかしくなる。 今日、学校で何があったのかを誰かから聞いたに違いない。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!