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第633話
もしかして、何か悪いことを考えているのだろうか。
だからそんなに、悲しそうな表情をしているのか。
「泰介、俺は······」
「ま、待って!待って!わかった!俺が誉君の番になるなんて烏滸がましいことしてごめんなさい!!でも、やっぱりどうしても誉君が好きなの······っ!う、浮気でも、なんでもしてくれて構わないから、解消するなんて言わないで······」
思わず呆然とする俺を他所に、泰介は一生懸命に話し出す。
「他のオメガの子達にも言われた。俺なんかが誉君の番だなんて、そんなのおかしいもんね!だって俺······何も出来ないのに、ただ誉君にしてもらってばかりで、何も出来てないしっ!」
「落ち着け」
「本当にごめんなさいっ!」
忙しく動く口を、キスをして塞ぐ。
何を馬鹿なことを考えているんだ。
馬鹿すぎてちょっと呆れる。
「解消なんてする気は無いし、そもそも、お前が俺の番だと何が悪いんだ?烏滸がましいって何が?何も悪くないし、おかしくもない。俺が言いたいのはそんなことじゃない。」
「······へ?」
さっきまで寒くてガクガクと震えていた小さな身体を、ギュッと強く抱き締める。
「さっき真緒に話したんだ。俺はもう真緒との事を思い出にするって。」
「え······思い出······?」
「ああ。だから、もう縛られないでいようって決めた。······今まで不安にさせてごめん。俺はお前が好きだよ。誰に何を言われても、俺の番はお前だけだ。」
そう言って微笑んでみせると、泰介から香る匂いが変わった。
上手く表現はできないけれど、マイナスな気持ちじゃないのはわかる。
「ほまれ、くん」
「ずっと気持ちに応えられなくて、遅くなったけど、まだ許してくれるか?」
「っ······誉君っ」
泰介が俺の背中に手を回して、わんわんと泣き出した。
「俺、ずっと······誉君が好きだよ。許すなんて、そんなこと言えないよ。だって、俺は何も怒ってないもんっ」
素直に気持ちを吐けば、途端に愛しさが溢れる。幸せを感じて、俺も堪えられずに涙を流す。
「んっ、ふふ、誉君も泣いてるのっ?」
「ああ······幸せだと思って」
泰介の細い指が俺の頬を撫でて、涙を拭ってくれる。
「誉君、大好き。愛してるっ」
「ああ。俺も。愛してるよ」
やっと、伝えられた想い。
2人して泣いて、暫く強く抱き合った。
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