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第636話

結局、泰介はその日のうちに起きることはなくて、朝になって漸く熱が引いた。 目を覚まして、何も食べれないという泰介に摩り下ろしたリンゴを少し食べさせる。 足の間に座らせ、背中を俺の胸に預けさせた格好で、少しぼんやりとする泰介にそっと声をかける。 「今日1日はゆっくり休もう。」 「······ここ、誉君の部屋だよね?」 「うん」 少し寝癖のついた髪を梳いてやる。 「誉君のお母さん達に挨拶しなきゃ」 「それは体調が全快してから。まだだるいだろ。」 そう言うと困った様な表情をして、俺の胸に擦り寄ってくる。 「沢山迷惑かけてごめんね」 「迷惑じゃないよ。」 抱きしめると泰介は小さく微笑んだ。 「もう少し寝てようか。明日は学校に行けたらいいな。」 「······誉君」 「ん?何?」 何かを言いたげな表情。 なのに口は閉ざされたままで、唇にチュッとキスをするとチラッと俺を見る。 「学校、もう行きたくない」 泰介の言葉に何も言えないでいると、辛そうに歪められる。 「······いじめられるの、疲れた。」 「······疲れたなら休まないとな。」 細められた目から零れていく涙。 安心させてやらないといけないのに、上手く言葉が出てこない。 「大丈夫、俺が何とかするから。」 「······大丈夫じゃ、ないもん」 「俺のこと信じて」 散々泰介を待たした挙句に言う言葉ではないだろうけど、泰介から優しい香りがして、安心しているのがわかる。 「誉君、大好き」 「ああ。俺もだよ」 早く、泰介をいじめた奴らをどうにかしないと。

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