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第650話 千紘side

「え、じゃあ渡君が虐められてたの?」 「そうみたいですよ。何か1年のオメガがコソコソしてたのは知ってるんだけど、結局昼休みと放課後に渡のクラスに行ったらしくて。」 高梨先輩と渡君が休んでいる。 あんまり気にしていなかったけれど、生徒会室にやって来た宮間君が渡君が虐められていたことを説明してくれた。 「主犯は丘咲っていうオメガなんです。その子が高梨先輩を狙ってたみたいで、それなのに渡が番になって······って。」 「下らない嫉妬だな」 匡がそう言葉を零す。 でも、俺もそういう嫉妬を向けられたことがあるから分かる。どれだけ下らなくても、その嫉妬を向けられた人からすれば、まるで自分が間違っているんじゃないかと思ってしまうこともあることを。 「渡君があまり深く考え込まなきゃいいんだけど······」 「そこら辺は高梨先輩が上手くやるだろ。」 「そうだね。あの2人は運命の番だし」 そう言うと匡も宮間君も目を見開いて驚いている。 何か変なことを言ったっけ?そう思うより先に、匡に肩を掴まれた。 「運命だったのか!?」 「えっ、言わなかったっけ!?」 「聞いてねえよ!」 この学園で2組の運命の番が誕生したのは大ニュースらしい。 運命の番というものに疎い俺からすれば、あまり事の重大さが伝わってこない。 「とにかく珍しいんだね」 「当たり前だろ。都市伝説だって言われてるくらいだぞ」 「わかってるけど、そこまで驚く事?」 「それはお前が運命の番を見つけたから言えることだ」 ジト目で見られて視線を逸らす。 手元にある資料をまだ来ていない寒沢君がいつも座る場所に投げて置いた。 「それで、高梨先輩と渡君が休んでる理由はそれ?」 「多分······」 宮間君は頷いて、溜息を吐く。 「俺ももっと注意深く見ていたら良かったな。そうすれば渡もあんまり傷付かずに済んだかもしれない。」 「宮間君は知らなかったんだから仕方ないよ。それに、付けられた傷は高梨先輩が癒してあげてるはず。2人が来ていないってことは、きっとそうだよ。」 そう話していると、うるさく生徒会室のドアが開いて、井上君と寒沢君がやってきた。

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