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第652話
その日の夜、高梨先輩だけが俺と偉成が寛いでいた部屋にやってきた。
やけに難しい顔をしているから、きっと渡君のいじめに関係しているんだと思って、話を真剣に聞こうと背筋を伸ばす。
「泰介がいじめを受けたみたいで、暫く学校には通いたくないらしい。事が収まれば安心できるだろうから、そうしてやりたいんだが······」
「渡君をいじめたのは、丘咲君っていう子なのは知ってますか?」
「ああ。丘咲の幼馴染の森っていうやつから聞いた。いじめられてるって教えてくれたのも森だ。森は止めることが出来なかったって少し後悔してる。······でも何で松舞がそれを知ってるんだ?」
今日、宮間君と話をしたことを伝え、それが渡君のいじめの話だったと言えば、眉を顰めて溜息を吐く。
「1年は噂好きなんだな。わざわざ俺と泰介が番になった事も流されて、いじめのことも全部······。泰介にとっては負担になりそうだ。」
「でもいじめた理由も、そのメンバーもわかってる。マイナスな事ばかりじゃないですよ。」
わざわざ話に来てくれた宮間君まで悪く言われなくない。その気持ちをわかってくれたのか、偉成に頭を撫でられる。
「で、誉はどうするつもりだ?いじめたやつらに何をする?」
偉成の少し厳しい声に空気がピリッとした。
「勿論、後悔させる。誰の物に手を出したのか理解してるだろうし、泰介が傷つかないためにはなんだってする。」
「······お前、少し幼稚になったな。」
「何だと?」
うわ、嫌だこの空気。
睨み合ってる2人から離れて静かに部屋を出る。どうしようかと悩んでいると、廊下をウロウロしてる渡君を見つけた。
「渡君」
「あ、先輩!」
駆け寄ってきた渡君。
渡君はホッとしように息を吐いて、俺の手を掴んだ。
「誉君が先輩の部屋に行くって聞いて、でも俺、先輩の部屋がどこかわからなくて、ずっと探してたんだけど、そしたら迷子になっちゃって······」
「そうだったの?高梨先輩に用事?今ね、俺の部屋で偉成と争ってるよ。」
「えっ!?」
「心配いらないと思うけどね。とにかく高梨先輩に会いたいんだよね?こっちだよ」
今度は俺が渡君の手を掴んで部屋まで連れて行く。
部屋に行くとまだ冷戦中だったようで、睨み合いをしてる2人に「渡君が来たよ」と言えば、高梨先輩が顔を上げて渡君に柔らかく微笑んだ。
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