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第653話
「誉君」
「どうした」
渡君はスルッと俺の隣を通り過ぎて、高梨先輩に抱き着きに行く。
そっと背中を撫でて、安心させるように「大丈夫」と繰り返す先輩。
「ここを探してるうちに迷子になっちゃったらしいです。」
「迷子?電話してくれればいいのに」
「だって誉君、話をしに行くって言ってたから邪魔しちゃだめだと思って······」
高梨先輩の首に顔を埋めて、渡君はそのまま動かなくなった。
それを見て、早くふたりきりになった方がいいんじゃないかと思って、そっと口を開く。
「あのー······偉成との話はいつでも大丈夫なら、先輩と渡君のふたりきりになった方が、渡君も安心できるんじゃないですか?」
「······泰介、部屋に帰ろうか?」
小さく頷いた渡君。
高梨先輩は渡君を抱っこしたまま立ち上がり、部屋を出て行った。
それを見送ってから、俺は偉成の方を見る。
「高梨先輩がすごく甘かった!!」
「そうだな。あんなに甘いのは久々に見た」
「渡君、大丈夫かな?」
「大丈夫だろ。2人でいるなら何があっても安心できるはずだ。」
「運命の番だから?」
「ああ」
俺も偉成に甘えるように抱きつきに行く。
「偉成は高梨先輩と幼馴染でしょ?さっきみたいによく喧嘩するの?」
「いや、よくやる訳では無いけど······。お互い腹が立てば喧嘩する。それは昔から変わらない」
「2人とも大人っぽいのに。意外だな。」
「そうか?俺達はまだまだ子供だけど。」
偉成の腕が俺の腰に回って、体がより密着する。
近くなった顔。キスをすると、口元に小さく笑みを浮かべる偉成が格好良くてドキドキした。
「お風呂入ろ」
「そうだな」
お互いそう言いながらも動こうとしない。
俺は偉成に擦り寄って、そのまま何を考えることもせずにぼんやりとする。
「このまま眠りたい」
「別にいいぞ。風呂は明日入ればいいしな」
「······じゃあそうしようかな」
逞しい首筋に唇を寄せて、俺のモノだという印をつける。
そして舌でそこを舐めると、偉成が首を竦める。
「擽ったい」
「我慢して」
そう言うと偉成はくすくす笑いながら「無理」だと言って、俺の頬に手をやって、顔を離させた。
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