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第667話
電話が終わるとやけに機嫌が良くて、聞かなくてもホテルの部屋が取れたんだとわかった。
「千紘、大晦日は俺が迎えに行くからな」
「え?偉成の家に行かなくていいの?」
「ああ。迎えに行く!」
よほど嬉しいのか、偉成の匂いが本当に俺の大好きな匂いになっている。
「どこまで行くの?」
「秘密だ!」
「用意するのは1泊2日でいいの?」
「もっと泊まりたい?」
「いや、別に」
泊まりたいっていうか、一緒にいれれば問題ない。
「何でそんなに張り切ってるの?」
「千紘と旅行に行けるのが嬉しい!」
俺としては唐突すぎるから、本音を言えばもっと予定を立てて行きたかったけど。
「待って、お金は?」
「俺が出すから安心しろ。」
「安心できない!いくら!?いくら使ったの!?」
「2桁はいってない!」
「はぁっ!?」
偉成の言う2桁はきっと10万のこと。
つまり10万円近く使ったのか!?
「馬鹿っ!!バイトしてないからお金そんなに無いよ!!」
「俺はある!!」
こういう時、お金の価値観が違うと困る。
思わず両手で顔を覆った。そんな俺を不安げに見る偉成を指の隙間からチラリと確認する。
「千紘、怒ったのか?」
「······怒ってない」
「······ごめん、楽しみたくて。今度はちゃんと話し合って、計画してお金を使うことにする。だから悲しまないでくれ」
寂しげにそう言う偉成。
決まってしまったことを、さらに言えば楽しい筈の旅行を、悲しい気持ちで行くなんて、それは偉成に失礼だ。
ふぅ、と小さく息を吐いて手を離し、小さく笑ってみせる。
「うん、折角だもん、楽しもう。」
「ああ!」
気持ちを切り替え、荷造りを再開する。
偉成は鼻歌を歌いながら、スマートフォンを弄り始めた。
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