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第668話

その日の夜は、一緒に料理をして、お風呂に入り、何をすることも無く静かに眠った。 朝起きて、まだ眠っていた偉成にキスをして上体を起こす。 「······準備しなきゃ」 ベッドから出ようと、床に足をつけるとひんやりしていて、またベッドの中に戻りたくなる。 その思いを振り切って立ち上がると、手を掴まれて振り返った。 「もう起きるのか······?」 「おはよう。起きて準備したら帰るよ」 「······千紘」 強く手を引っ張られて、偉成に覆い被さるような体勢になる。 「偉成、手離して。帰らないと」 「夕方でもいいじゃないか」 「寒いから、昼間のうちに帰りたいの。」 手を離してくれないから、そのまま偉成に乗りかかり力を抜く。 背中に手が回されて、強く抱きしめられた。 「昼間も寒い。」 「朝晩よりましだよ。」 「······俺も起きる」 「うん」 偉成の上から退いて、手を繋いだままぐーっと引っ張ると漸く上体を起こしてくれた。 眠たそうに欠伸をこぼして、そのまま伸びをする。 「朝御飯、温かいスープ飲みたい」 「ああ。そうしよう」 「顔洗いに行こ」 手を引っ張って洗面所に行く。 顔を洗った偉成の後に顔を洗い、並んで歯磨きをした。 寝癖がついて髪がぴょんぴょんと跳ねている。 背伸びをして、偉成の髪に触れると、同じように俺の髪を触る。 「今日は一段とひどい寝癖だね」 「髪が伸びたから」 「切らないの?」 「切るよ。家に帰ってから。千紘は?」 「切ろうかなぁ」 他愛もない会話をしながら、キッチンに移動して2人で朝食を用意する。 用意したそれを食べて、歯磨きをして服を着替え、荷物を持てば帰る準備は終わり。 「じゃあ、また、大晦日に」 「······うん」 いつもみたいに、俺を敷地ギリギリまで見送ってくれる偉成は最後まで俺の手を離さなかった。 でも、本当、すぐに会えるのに。 「バイバイ」 「ああ」 寂しそうに笑顔を浮かべる偉成が愛しくて、バイバイって言った瞬間に俺も寂しくなった。

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