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第671話
駅に着いて電車に揺られやってきたのは有名な温泉街。
和な雰囲気が俺にとってはすごく珍しくて、想像していた以上に楽しい場所に連れてきてもらえた。
「偉成!着物!着物きてる!」
「そうだな。旅館に荷物を置いたら、着替えて街を散策しようか」
「うん!」
荷物を持って偉成が予約してくれた旅館に行くと、すごく広々とした豪華な場所で、圧倒されて建物全体を見るために上を向いたまま固まってしまう。
「千紘?入るぞ」
「こんな場所······高すぎる、絶対に高い······」
「高い?いや建物は低いが」
「値段だよ!!」
ズレてる偉成に半ば怒鳴るように言って、漸く建物の中に入る。
受付に行くと「赤目様ですね。お待ちしておりました」と恭しく頭を下げられる。すると代表のような人が現れて、偉成となにやら話をしている。
俺はお金持ちにでもなった気分で、館内を見渡した。
話を終えた偉成が戻ってきて、係の人が荷物を預かってくれると、部屋を案内される。
「う、わぁ······」
案内された部屋はとても広い。
飾りの壺や、掛軸なんかがあって、絶対に高級な場所だと確信する。
「こちらに露天風呂がございます。」
「ありがとう」
「街にお出かけになる際は、よければこちらにお着替えになってくださいね。」
そう言って出してくれたのはかっこいい着物。
嬉しくて手に取ると、偉成に「着替えるか?」と聞かれたけれど、まずは落ち着きたくて首を左右に振った。
「着ないのか?」
「着たいけど、ちょっと休憩。一息ついてから着替えて、街にいこうよ」
「ああ。」
2人きりになり、備え付けのお茶をいれてホッと息を吐く。
外は寒かったから、温かいお茶が余計に美味しい。
「温泉街なら遊べるのかな?射的とかある?」
「あったと思うけど」
「あったら勝負しようね!!」
「ああ。楽しみだな」
後ろからぎゅっと抱きしめられて、甘えるように腕を掴んで小さく左右に揺れる。
「連れてきてくれてありがとう」
「どういたしまして」
頬にキスされて、ふふんっと嬉しくなった。
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