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第680話
お風呂から上がり、ドライヤーで髪を乾かしていると、傍に置いていたスマートフォンに明かりがついた。
画面を見ると、誉君からメッセージが届いていて、今から電話をしていいかの連絡だった。
「えっと······もうちょっと待ってもらおう······」
髪が中途半端にしか乾いてない。
メッセージにもそう返事をした。
髪を乾かしたら誉君の声が聞ける。そう思うとほんの少し後の事が楽しみで仕方がない。
「んー、よし!」
ドライヤーを止めて、元あったところに片付け、リビングに向かって「あがったよー!」と大声で伝えてから、スマートフォンを持って部屋に向かって走る。
メッセージには、わかった、と返事が来ていた。
それを見てから、誉君に電話をかける。
「──もしもし」
「誉君!」
「ああ。風呂入ってたんだな。」
「そうなんだ。誉君ももうお家に帰ってるの?」
「うん。帰ってるよ」
ふふふ、とついつい笑ってしまう。
大好きな人と電話ができることは幸せだ。
「お母さんがね、すごく張り切ってるよ。誉君に会うの楽しみだって。」
「俺も楽しみ。でも正直、それよりも泰介に会いたい。」
「本当?実はね、俺もそうなんだ。」
本当は電話じゃなくて、すぐ傍に居て欲しいと思う。
ただ、年末年始は家族と過ごす時間だと思っているから、そんなワガママは言えない。
「年が明けたら、誰かと初詣行くのか?」
「ううん。今のところ予定は無いけど······。あ、誉君。」
「何?」
モジモジとしながら、ちょっとだけお願いをしてみる。
「も、もし、もしも、よかったら、一緒に行きたいなー······なんて。」
「もちろん。俺が言おうとしたのに。三が日は過ぎるけど、泰介の家に行ってそのまま一緒に行こう。」
「うん!やったぁ!凄く嬉しい!」
年明けに誉君との予定ができたことが嬉しくて、えへへって笑っていると、誉君が小さく笑う声が聞こえてきた。
「何で笑ってるの?」
「泰介が思ってた以上に喜んでるから、俺も嬉しくなった。」
「誉君の顔は見えないけど、すごく優しい顔してることはわかったよ。」
「そうか」
穏やかな時間。
もう少し浸っていたいけれど、誉君は時間が無いみたい。
「ごめん。今から出かけるんだ。また明日電話する。」
「今から出かけるの?大変なんだね。気をつけてね。忙しいなら電話は大丈夫だからね。」
「ううん。絶対明日もかける。······おやすみ」
「うん。おやすみなさい。」
呆気なく通話が切れた。
今からお出かけって、どこに行くんだろう。
気になるし、少し寂しいとも感じるけど、明日も電話をくれるらしいから、それを楽しみにしておこう。
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