680 / 876

第680話

お風呂から上がり、ドライヤーで髪を乾かしていると、傍に置いていたスマートフォンに明かりがついた。 画面を見ると、誉君からメッセージが届いていて、今から電話をしていいかの連絡だった。 「えっと······もうちょっと待ってもらおう······」 髪が中途半端にしか乾いてない。 メッセージにもそう返事をした。 髪を乾かしたら誉君の声が聞ける。そう思うとほんの少し後の事が楽しみで仕方がない。 「んー、よし!」 ドライヤーを止めて、元あったところに片付け、リビングに向かって「あがったよー!」と大声で伝えてから、スマートフォンを持って部屋に向かって走る。 メッセージには、わかった、と返事が来ていた。 それを見てから、誉君に電話をかける。 「──もしもし」 「誉君!」 「ああ。風呂入ってたんだな。」 「そうなんだ。誉君ももうお家に帰ってるの?」 「うん。帰ってるよ」 ふふふ、とついつい笑ってしまう。 大好きな人と電話ができることは幸せだ。 「お母さんがね、すごく張り切ってるよ。誉君に会うの楽しみだって。」 「俺も楽しみ。でも正直、それよりも泰介に会いたい。」 「本当?実はね、俺もそうなんだ。」 本当は電話じゃなくて、すぐ傍に居て欲しいと思う。 ただ、年末年始は家族と過ごす時間だと思っているから、そんなワガママは言えない。 「年が明けたら、誰かと初詣行くのか?」 「ううん。今のところ予定は無いけど······。あ、誉君。」 「何?」 モジモジとしながら、ちょっとだけお願いをしてみる。 「も、もし、もしも、よかったら、一緒に行きたいなー······なんて。」 「もちろん。俺が言おうとしたのに。三が日は過ぎるけど、泰介の家に行ってそのまま一緒に行こう。」 「うん!やったぁ!凄く嬉しい!」 年明けに誉君との予定ができたことが嬉しくて、えへへって笑っていると、誉君が小さく笑う声が聞こえてきた。 「何で笑ってるの?」 「泰介が思ってた以上に喜んでるから、俺も嬉しくなった。」 「誉君の顔は見えないけど、すごく優しい顔してることはわかったよ。」 「そうか」 穏やかな時間。 もう少し浸っていたいけれど、誉君は時間が無いみたい。 「ごめん。今から出かけるんだ。また明日電話する。」 「今から出かけるの?大変なんだね。気をつけてね。忙しいなら電話は大丈夫だからね。」 「ううん。絶対明日もかける。······おやすみ」 「うん。おやすみなさい。」 呆気なく通話が切れた。 今からお出かけって、どこに行くんだろう。 気になるし、少し寂しいとも感じるけど、明日も電話をくれるらしいから、それを楽しみにしておこう。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!