691 / 876
第691話 偉成side
千紘とすごした年末年始。
まだその気分に浸っていたかったのに、今日から学校だなんて酷い。
千紘は意外とあっさりしていて、俺がグチグチと文句を零している間に、先に登校してしまった。
「······千紘が冷たい」
1人でドボドボ歩き校舎を目指していると、知っている顔を見つけて声をかけた。
「渡、おはよう。今日は誉と一緒じゃないのか?」
肩を軽く叩くと、渡は振り返って俺を見て、泣き出しそうな表情になった。
「えっ、い、今の、痛かったかっ?悪かった、軽くしたつもりだったんだが······!」
「あ、赤目、先輩」
「悪い。保健室行くか?」
「······先輩ぃ」
ついに大きな目から涙を流し出して、慌ててスマートフォンを取り出し誉に連絡しようとすると、「ダメ!」と言って手を押えられる。
「渡······?」
「誉君には、連絡、しないでください······っ」
「わ、わかった!わかったから泣くな!」
他の生徒に見られたら俺が虐めているように見えるに違いない。
兎に角、渡の腕を掴み急いで校舎に入る。そしてまだ先生の来ていない保健室に行って、持っていたハンカチを渡に差し出す。
「どうしたんだ。肩が痛いなら冷やした方が······」
「違うんです······。ちょっと、悩んでることがあって、でも······誰にでも相談できる内容じゃないから誰にも言えなくて、そしたら······赤目先輩に会ったから······」
「俺になら話せるのか?誉には話せない?」
「はい。······誉君との、ことだから。」
誉と何かがあったらしい。
誉とのことで、誰にでも相談できる内容じゃないとなると、思い当たるのは真緒のこと。
「もしかして、真緒が関係してるのか?」
「······はい。」
それは······やっぱり、誉と直接話すべきだと思うけれど、渡は兎に角話を聞いてもらいたいのだろう。
「俺でいいなら話を聞かせてほしい。ただ、解決できるかどうかはわからない。」
「いいんです。吐き出せなくて、それで余計に辛くなってるだけだと思うから。」
椅子に座って、渡を見る。
とても不安そうな表情で、ゆっくりと話し出した。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!