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第697話
「誉君、誉くん······っ!」
「うん」
俺の背中に手が回って、弱々しく抱きついてきた。
「悪かった。本当に、代わりなんかじゃない。泰介がいい。」
「っ、も、もう1回、言ってっ」
「泰介がいい。俺の番は泰介だけだよ。」
泰介の首筋に顔を埋め、そこに唇を押し当てる。
匂いが甘くなってきた。だんだんと安心してきたのがわかって、俺も安心する。
「誉君······」
「ん、項噛ませて」
「ぁ、あっ」
泰介の頭を自分の左肩に押し付けて、見えた項に噛み付く。泰介の体が大きく震えて、力が抜けたのか座り込んでしまう。それを追いかけて俺も座り込み、噛み付いた場所を舐める。
「はぁ······ぁ、ほま、れくん······ぁ、や、待って、ダメ······っ」
「な?ここ、俺に噛まれてるんだ。わかるだろ?」
「んっ、わ、わかった、わかった······っ!」
「俺の番だ。」
口を離すと泰介は真っ赤な顔で口元を手で覆った。
「安心した」
「え······?」
ついつい、ホッと息を吐くと泰介はその顔のまま俺を見上げる。
「そ、そういえば、誉君の話したいことって······?」
「······実はお前に避けられてる理由が、俺がセックスが下手くそだからだと、思ってて」
「えっ!?」
泰介は少し固まった後、ケラケラと笑いだした。
それはそれは涙を流すくらいに笑っている。
「それ、本気?真剣に悩んでたの?」
「······真剣に悩んでた。俺が下手くそでもう愛想尽かされたのかと」
「そんなことあるわけないじゃん!誉君は、その······じょ、上手、だと思う······。だって、いつもすごく気持ちいいもん。」
泰介はまだ赤い顔のまま、俺に向かって小さく微笑んだ。
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