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第704話
***
時間は経って遂に偉成の受験の日がやってきた。
ドキドキしている俺を他所に、冷静で落ち着いている偉成。どちらが試験を受けるのかわからない。
「い、いっせい、大丈夫だからね!緊張しないで!」
「千紘、大丈夫だから。そんなにソワソワされると逆に緊張する。」
制服を着て部屋を出る偉成を、さっきまでもずっとしていたけどまた強く抱きしめる。
「いっぱい勉強したから、絶対大丈夫だから!」
「ああ。ありがとう」
頭を撫でられ、キスをされる。
そして体を離すと、偉成は「行ってきます」と言って出て行ってしまった。
本当は試験会場の控え室で待っていたかったのに、「千紘が外で1人でいるのが気になって集中できない」と言われてしまえば家で大人しくしている他ない。
「受かりますように!ていうか絶対受かる!偉成だもん!」
俺は俺で学校に行かないといけない。
時間になってから家を出ると、匡と優生君がいた。
「千紘、おはよう。兄貴はもう行ったのか?」
「うん······」
「大丈夫だよ!赤目さんは頭も良いし、品行方正だし!」
「品行方正関係ある?」
筆記試験だけだから、あまり関係ないと思う。
「2人とも、偉成が帰ってくるまで一緒にいてくれないかなぁ······?」
「いいぞ」
「もちろん!」
そう言ってくれた2人に感謝して、匡と優生君に笑いかけた。
学校に着いて時計を見る。
あと30分で偉成の試験が始まる。
緊張して体が熱い。
「千紘君、顔真っ赤だよ?大丈夫?」
「え······っ?」
「······ねえ、発情期始まってない?」
言われてみれば、さっきから感じているこれは何度も感じたことのある熱さだ。
意識をし出すと体が怠くなって、呼吸が速くなる。
ホームルームが始まるチャイムが鳴る。
麻倉先生が入ってきて、俺を見て眉を寄せた。
「おい松舞、発情期か?」
「うぅ······」
「薬は?」
そう聞かれて首を左右に振る。
麻倉先生は咄嗟に教室に置いてある緊急抑制剤を手に取って、俺の太腿に刺した。
番がいるとわかっているけれど、俺が少しでも楽になるように打ってくれたんだと思う。
「いっ······!」
「オメガの部屋に行くか、寮に戻るか、どうする?」
「ぁ、う······先生ぇ」
「どっちがいい?······赤目は確か入試だったな。終わったら寮に帰ると思うから、寮で待ってるか?」
頷くと、先生は俺のバッグを肩にかけて、俺をそっと抱き上げた。
「っん······!」
「ちょっと我慢してくれ。」
「先生!これで顔隠してあげてほしい······」
優生君がそう言って、着ていたカーディガンを脱ぎ俺の頭に掛けてくれる。
確かに色んな人に発情している顔を見られたくなくて、それを頭に掛けたまま落ち着くように必死で呼吸をした。
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