709 / 876
第709話
***
発情期が終わり、風呂に入ってリビングに出る。
お互いに睡眠不足で、ソファーでうつらうつらとしてしまった。
時刻は昼の3時。
明日は学校があるけれど、俺が登校するのはそれが最後。
3年生はもう習うことがないし、俺は補習も何も無いからそれ以上学校に行く理由がない。
「千紘」
「んー?」
半分目を閉じながら俺にもたれ掛かりぼんやりする千紘に、イタズラをするようにちゅっと唇を啄む。何度も繰り返しているとくすくす笑いだして、俺の胸をとんとんと叩いた。
「なぁに?話があるんじゃないの?」
「······俺は明日が最終登校日だから」
「えっ!?」
ぼんやりしていた千紘が突然背筋を伸ばす。
驚いている間に俺の肩を掴んだ。
「え、嘘でしょ!?もうそんな時期!?」
「ああ。発情期だったからな、時間の感覚がちょっとズレてるのかもな。」
「違う!そういうことじゃない!······ああ、ごめんね、俺が発情期なんて起こしたから、高校生活全然楽しめてないよね······最後の思い出が······」
「いや、楽しかったけどな。それに千紘は悪くないから、そんなに落ち込まないでくれ。」
千紘から悲しみの匂いがして、項垂れる背中を撫でるとちらっと顔を上げた。
「俺ね、あのね、それだけじゃないの。まだ離れないってわかってるんだけど、すごく······すごくすごく寂しい。もうちょっとで偉成がいなくなる······。」
「でも明日が終われば卒業までずっとここにいるよ。卒業しても一緒に暮らすんだ。毎日行ってらっしゃい、おかえりって言える。」
眉尻を下げたまま、少しだけ口角を上げた千紘。
顔を寄せ、唇同士を触れさせる。
「確かに卒業って聞けば寂しいかもしれないけど、ずっと一緒だ。」
「······うん」
「愛してるよ」
「俺も」
漸く悲しみの匂いが薄れる。
それに安心して、千紘の手を取り指を絡めた。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!