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第714話 千紘side
***
偉成が休みになってから、毎朝寮を出る時は「行ってらっしゃい」と言われ、帰ってくると「おかえり」と言って迎えてくれる。
「実は今日合否発表だった。」
「はぁっ!?何でそういう大切なこと言わないの!?」
だけど今日は『おかえり』は無くて、代わりにそう言われ俺は少し怒っている。
「お、怒ってるのか!悪かった!俺も忘れてたんだ!」
「合否発表忘れるって何!?」
睨みつけると、シュンとなった偉成。
なんだか申し訳なくなって「ごめん」と謝る。
「ちょっと驚いただけ。ごめんね」
「いや······。」
少し気まずくなって、話の続きを促してみる。
偉成はチラッと顔を上げ、背中に隠して持っていた封筒を俺に差し出した。
「まだ見てない」
「······」
「ネットでも見れるけど、千紘と一緒に見ようと思って、まだ。」
「そ、そそ、そんなの、俺が緊張するじゃん······!」
封筒は確かに開けられてなくて、急に心臓がうるさく音を立てだした。
「一緒に見てくれないか?」
「あ······う、うん。ま、待ってね、すぐにあの······着替えるから」
「急がなくていいよ。」
結果は変わらないんだし。と言った偉成。
そんなこと言われたって気になるし緊張するし······急ぎたくもなる!
すぐに手を洗ってうがいをし、服を着替えた。
2人でソファーに座る。
「千紘が開けて」
「え、俺ぇ?」
渡された封筒。
どうしよう。
いや、偉成の事だから絶対に受かってる。間違いなく受かってる。
······でももし、良くない結果だったら?
ああもう。今日が合否発表だって事前に知っていたらリアクションを考えられたのに。偉成にかける言葉を見つけられていたのに。
「千紘?」
「あ、う、うん!開ける!開けるぞ!」
封を切って深呼吸して書類を取り出す。
ぎゅっと目を瞑り出した書類を封筒の上に重ねて目を開けた。
「っ、よ、よかったぁっ!!」
合格の2文字が見えて緊張から解放され涙が出る。
咄嗟に偉成に抱きつく。抱き留めてくれたけれど、偉成からの反応がない。
顔を上げると険しい表情をしていて、不思議に思っているうちに書類を取られた。
「······特待生だ。」
「うっそぉっ!」
特待生って、すごく頭がいいって事だよね?
知っていたけど!そんなことは知っていたけど、偉成ってちょっと変わってるから賢いっていうことを忘れていた。
「おめでとう!!」
「ありがとう」
漸く偉成の表情が柔らかくなって、ホッと息を吐いた。
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