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第716話
***
2月末、今度は国立大学の入試が目前に迫っていた。
偉成は食事とお風呂にトイレ以外は自分の部屋でずっと勉強をしている。
飲み物やお菓子を持ってそっと部屋に入り、邪魔にならないように机の隅に置いてすぐに部屋を出た。
学校がある日はまだしも、休みの日は1人で勝手に出掛けるのも偉成に悪い気がして籠っていたけれど、そろそろ俺も限界。
ダウンを着てこっそりと寮から抜け出し、近くのショッピングモールで気分転換をする。
服を見たり、今日の晩御飯はどうしようかとスーパーのお惣菜コーナーを見てメニューを考える。
メニューを決めて材料を買い、両手に買い物袋を持って寮に帰る。
重たいなぁ。買いすぎちゃった。
のそのそ歩いていると、突然腕を掴まれて慌てて振り返る。
「見つけた、運命の番!」
「──はぁ?」
目の前に立っているのは外国人を彷彿させる容姿の男性。
金色の髪に彫りの深い顔。
「あの······」
「ずっと探してたんだ!千紘、そう、君は千紘でしょう?」
「な、なんで······」
こんな人初めて会った。
なのにどうして俺の名前を知っているんだろう。
「ごめんなさい。俺には既に運命の番がいて、貴方のは勘違いだと思います。」
「······違う。勘違いをしてるのは赤目偉成の方だ。」
「あの、何で名前を······」
突如強い力で引き寄せられ、荷物が手から落ちていく。
「帰ろう。僕達の家に」
彼の胸に顔を埋めることになり、自然と彼の匂いが鼻腔を掠める。
「ぁ、れ······」
途端体が思うように動かなくなる。
頭の中がほわほわして、力が抜けていく。
何でだろう。だんだんと熱くなって呼吸が速くなる。
「──千紘っ!!」
そんな時、偉成の声が聞こえて顔を上げた。
瞬間、唇が塞がれる。
ぐっと後ろから引っ張られ、偉成の胸に背中が当たった。
偉成が男性に向かって何かを怒鳴っている。
それに耳を傾けるよりも、体の熱が上がり苦しくなってきて偉成の服を掴む。
「い、せい······熱い······」
「ほら、僕の匂いで発情期が始まったでしょう?」
男性の声が鼓膜を揺らす。
偉成は苛立ったように俺を抱き上げ、寮に向かって歩き出す。
「い、偉成、荷物が······」
「いい!」
すごく怒っている。
匂いが怖い。折角買った材料も拾えずに、帰らされる。
男性が俺に向かいヒラヒラと手を振っていた。
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