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第719話

そんなことがあってから、偉成は以前より過保護になった。 学校に行く時は俺の知り合いのアルファと会うまで送ってくれる。 「だから、敷地内は大丈夫だって!」 「そうやって油断していて、何かあったら怖いから」 「多分そんなことないって」 今日は部屋の前で匡と優生君にばったり会って、2人と一緒に登校した。 帰りは偉成が迎えに来て、赤目兄弟に挟まれて歩く。 「警察には言ったのか?」 「ううん。どうせ俺が誘ったとか言われて終わりだろうし。」 匡の言葉に首を振って溜息を吐く。 未だに性別での差別は無くならない。 「まあ、そうだろうな。」 「そんなことするわけないのに」 「知ってる。」 匡はそう言って優しく笑って、偉成は俺の腰を抱く。 「俺達は知ってる。気にするな。」 「うん。ありがとう」 偉成の言葉に頷いて、寮に帰る。 部屋に帰り、手を洗って偉成が用意してくれているご飯を食べた。 「あ、まずい」 「何?」 冷蔵庫を開けた偉成が「牛乳が無い」と言って買い物に行く準備をしだした。 「俺も行きたい。一緒に行っていい?」 「······絶対離れないって約束できるか?」 「うん。」 ダウンを着て出かける準備をし、偉成と手を繋いで外に出る。 2人で外に出かけるのは久しぶりだから楽しい。 あんなことがなければもっと楽しめたのに。 「寒くないか?」 「うん。大丈夫だよ」 ぎゅっと腕に抱き着くと「歩きにくい」って言いながらもくすくす笑うだけで拒否はしない。 「偉成大好き!」 「俺も大好き」 キスをすると、嬉しそうに笑うから、俺もつられたように笑う。 「──千紘」 そんな幸せな時に聞こえてきた声。 ゾワゾワっと背中に悪寒が走った。

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