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第723話

「本当に警察に相談しないのか?」 「······うん。だって······怖いんだもん。それに警察より先に、お母さんに話したい。」 「わかった」 寝室に行って母さんに電話をかけた。 あったことを話すと、すごく心配をしてくれた。 警察に相談するべきだと言われたけれど、やっぱりあの人は話せばわかってくれると思う。 どうにかして、あの人と話し合う場所が欲しい。 「偉成」 「何だ?」 テレビを見ていた偉成に声を掛ける。 すぐにテレビを消して俺を見た。 「あの人と話がしたい。」 「······巫山戯てるのか?」 「違うの。こういうことはもうやめてって、そうじゃないと警察に相談することになるって、話したら、やめてくれるかもしれない。」 だんだんと偉成が怒り出してる。 怖くなって俯くと、傍に来て肩を強く掴まれた。 「わかった。千紘がどうしてもと言うならそれも1つの手段だと思う。けど、それで、その場でもし何かがあったら?俺は千紘が誰かに奪われたり傷つけられたりするのは我慢ならない。」 「······わかってる。俺だってもし偉成がそんな状況になったら我慢できない。でも、解決しないよ。警察に相談してもどうせ俺が悪いって言われるんだ!今まで何度か同じようなニュースを見てる!その度にオメガが悪いって言われてる!」 気持ちが昂って怒鳴ってしまう。 偉成は悪くないのに。 「怖い、確かにあの人と話すのも警察に相談に行くのも怖くて嫌だ!でも、それ以上に世間が怖いんだよ!!」 「千紘······」 オメガだからと1括りにされたくない。 涙が溢れて、それを偉成に拭われる。 そっと抱きしめられて、背中を優しく撫でられた。 「悪かった。そこまで考えが至らなかった。」 「······っ、お、俺こそ、ごめんなさい······っ」 「謝らないでくれ。世間での差別のことを忘れていた。それよりも千紘の安全がと思ったけど、外に行けばそれだけで傷つくことだってあるのに······」 偉成の肩に頬をつけて、また零れそうになる涙をぐっと堪える。

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