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第725話 偉成side
上手くいくかはわからない。
もしかしたらあの男は現れないかもしれない。
それでも早く事を終わらせるにはそれしか方法が思い付かなくて、千紘をホテルの一室に匿ってから学園の敷地外をウロウロと歩く。
俺から少し距離を空けて護衛をしてくれる2人が歩いている。
出てこい。出てこい。
気持ちだけが焦り歩みが速くなる。
「──やあ」
ゾワッと背中に嫌な感覚が走った。
不気味なほど柔らかい声。
顔を上げると声と同じような人当たりのよさそうな表情をしたあの男が立っていた。
「赤目偉成君。今日は千紘と一緒じゃないのかい?」
「······ああ。お前に、会いに来た。」
「僕に?······そうなんだ。すごく嬉しいよ」
金色の髪が揺れる。
微笑んだそいつは俺に近付き、俺の手を取った。
「実はずっと君と話がしたかったんだよ。」
「······俺と?千紘じゃないのか?」
「君だよ。」
「······名前は」
「近森 敦貴 。よろしくね。」
近森は俺の手を引いてどこかに向かう。
カフェに連れて行かれ、席に座る。
「僕に会いに来てくれたんでしょう?何か話があったのかな?」
「ああ。」
運ばれてきた水を1口飲んで、近森を見る。
「千紘に、ストーカー行為をしているのはお前だな。」
「あ、うん。そうだよ。綺麗に撮れてるでしょ、あの写真。君も見てくれた?」
「······ああいうことはもうやめてくれ。金輪際千紘に近づかないでくれ。」
「うん。わかった!」
近森の返事に思わず「え?」と声を漏らした。
そんなあっさり受け入れるなんて思ってもみなかったから。
近森は未だにニコニコと笑っていて、注文した紅茶がテーブルに置かれると、カップに口をつける。
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