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第726話

「······運命の番だなんだと言っていた割に、随分あっさりしてるんだな。」 「だって嘘だし」 「······そんなことは知ってる。千紘の運命の番は俺だから。」 「うん。でも少し疑問に思ったでしょう?何で千紘が発情期になったのか。」 微笑む近森に眉を寄せる。 「あれね、誘発剤なんだよ。今は色んなタイプがあって、俺がつけていたのは香水タイプのなんだ。オメガが匂いを嗅げば発情するっていうね。」 「······わざわざそれをつけた理由は?」 「君に本当は千紘と僕が運命の番なんじゃないか、って不安になってもらうため。まあ、少し不信感を抱いてくれるだけでよかったんだけど、僕と別れたあとはいつもどんな感じだったの?」 「······香水タイプの誘発剤だからか、発情期の時間は短かった。残念だがお前の思惑通りにはなっていない。」 「そっか、ざんねーん。」そう軽く零した近森は、笑みを絶やさない。 何がそんなに楽しいのだろうか。余裕な姿に追い込まれていく気にすらなる。 「どうしてそんなことをするんだ。本当に千紘が好きなのか?」 「ううん。千紘は別に。俺が狙ってたのは君の方だよ。」 「俺?」 「そう。······あれ、もしかしてまだ気づいてない?」 小首を傾げ、テーブルに肘をついて手に顎を乗せる。 「僕、オメガだよ。」 「······え」 首輪を着けていない。 驚いて目を見開くと、心底楽しそうに笑いだす。 「番も居ない。だから項はまっさらだよ。」 「で、でも、さっき誘発剤の香水をつけてたって······」 「抑制剤を飲めばなんて事ないよ。誘発剤っていってもそんなに強いやつじゃないしね。」 近森の手が伸びて、俺の腕を掴む。 驚いて反応ができなかった。 「俺が立てた計画はこう。まず千紘を君から離す為にアルファを装って千紘に近づいた。千紘が発情期を起こして、君との間に亀裂が走ることを願ってたんだ。それで、初めは上手いこと発情期になってくれたと思ったけど、君の過保護が加速しただけだったから、すぐに作戦変更した。次は千紘をストーキングしたんだ。君を誘い出そうと思って。」 柔らかかった雰囲気に、少し鋭さが混じった。

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