729 / 876
第729話
「怖かったよな。こうなる事を予測できなくてごめん。千紘を危険な目に遭わせるつもりはなかったんだ。」
「······ん、大丈夫······大丈夫。それより、偉成は······?」
「俺も大丈夫だから。」
千紘の体が細かく震えている。
きっと、俺が想像できないくらいに怖かったに違いない。
そのまま暫く待っているとドアベルが鳴り、怯えた様子の千紘を部屋の奥に居させて、ドアを開けた。
「匡」
「千紘は?」
「怖がって、奥にいる。」
「······何で千紘に警護を付けなかったんだ」
「場所は割れていないと思っていた。」
匡を中に入れて、千紘を呼ぶ。
「匡が服を持ってきてくれた。」
「······匡」
「持ってきたからこれに着替えて、落ち着いたら寮に戻っておいで。優生と待ってる」
匡は千紘にそう言って、すぐに帰って行った。
千紘は受け取った服に着替えて、それから深く息を吐く。
「服のお礼、言えなかった」
「寮に帰ってから伝えよう。」
千紘の頬にキスをして、またそっと抱きしめる。
甘えるように千紘の手が背中に回された。
「千紘、寮に帰ろうか。それともまだここにいる?実家に帰るのもいいし······」
「寮に、帰る」
そのまま千紘を抱き上げ、部屋を出る。
喧騒はとっくに止んでいて、ホテルを出てタクシーを拾い寮まで帰る。
その車内で近森と接触できたと警察から連絡があった。近森とその仲間は自分の犯した罪はこれから明らかになって、俺達には平穏な日常が戻ってくる。
寮に帰り、疲れている千紘を寝室に運ぶ。
少し休んで、と伝えて離れようとすると、手を取られてベッドに膝を着いた。
「触られたの、気持ち悪い。」
「······俺はどうすればいい?」
千紘に触れてもいいのかどうか分からなくて、そう聞くと首に腕が回される。
「触って」
泣き出しそうな千紘の頬に触れて、そっと唇を合わせた。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!