730 / 876
第730話 千紘side
怖かった。
偉成が帰ってきたと思ってドアを開けたら、知らない男が沢山いた。
危険を感じてドアを閉める前に、1人2人と中に入ってきて、口を大きな手で覆われベッドに倒された。
抵抗して手を噛めば頬を打たれた。
服を脱がされ、体を撫でられる。
気持ち悪さに涙が溢れ、誰でもいいから助けてくれと願った時、部屋のドアが大きな音を立てて開いた。
俺に触れていた手は離れて、偉成についていたはずの警察の2人が男達を取り押さえていく。
シーツに包まって部屋の隅で体を小さくしてその光景を眺める。
そんな時名前を呼ばれて、偉成が俺を抱きしめた。
偉成と目が合うと涙が零れていった。
寮のベッドの上で、同じ目と目が合う。
「触っていいか?怖くない?」
「怖くないよ」
偉成だから、怖くない。
まだ少しだけ速まっている鼓動。
偉成の手が胸に触れると深く息を吐いた。
「ちょっと震えてる」
「······ぁ、だ、大丈夫。」
もう全部終わった。
だから何も問題ない。
その安心感からか震えがまだ納まらない。
「安心して、震えてるのかも」
「······ううん。ちょっと不安の匂いがする。」
ぎゅっと抱きしめられて、体から力が抜ける。
頬にキスをされ、その後じっと目を見つめられて顔が近づく。
そっと目を閉じると唇に柔らかい感触を感じて、薄く唇を開けば舌が挿入され口内を蹂躙する。
「ん······ふっ、ぁ」
口に溜まる唾液を嚥下し、偉成の背中を撫でた。
唇が離れ、服の裾から手が入ってくる。
あの男達に直に肌を触られた時は気持ち悪くて仕方がなかったのに、偉成にされると気持ちいい。
「はぁ······ぁ、気持ちい······」
慌てると俺が怖がると思っているのか、いつもよりずっとゆっくりだ。
おかげで気持ちが焦らずに済んで楽だ。
「千紘、もう大丈夫だからな。」
「うん」
大丈夫。もう終わった。
これからは偉成との優しい未来しかない。
そう思うと胸が温かい気持ちに満たされた。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!