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第735話
***
「千紘、もう行かないと。」
「······わかってる、けど」
いよいよ卒業式当日。
久しぶりに制服を着て部屋から出ようとする偉成の手を掴んだままなかなか離せない。
これからも一緒に暮らすことはわかっているけど、やっぱり卒業してしまうと思うと寂しい。
俯いていると、ふんわりと抱きしめられ、偉成の肩に頬をつける。
「色々あったな。千紘と出会って、番になって······本当に色々あったけど、でもそれは今日で終わりじゃない。明日からもずっと一緒なんだ。寂しくないよ。」
「······うん」
「ほら、手を離して。俺は先に行くから、後でゆっくりおいで。」
体が離れて頭を撫でられる。
うん、······うん。そうだよね。
寂しくなんかないよね。これからもずっと一緒なんだもん。
偉成を見送って、それから自分の準備を始めた。
そろそろ行こうと建物から出ると、匡と優生君がいて、その傍には号泣してる渡君がいた。
「お、おはよう······?」
「千紘君おはよう!」
泣いている渡君に匡が「早く行こう」と背中を押して促している。
「何この状況」
「高梨先輩が卒業しちゃうのが寂しくて仕方がないって。」
「······高梨先輩が卒業したら、渡君は1人になるの?」
「ううん。さっき聞いたら一緒に住むらしいよ。今朝高梨先輩が部屋を出るまでは我慢したらしいんだけど、1人になった途端に悲しくなったんだって。」
優生君の説明を聞きながら、渡君の隣に移動する。
「渡君、おはよう。」
「うぅ······千紘、先輩ぃ」
「寂しいね。俺もすごく寂しい。実は偉成が出て行くのを止めてたんだよ。おかげで偉成は遅刻ギリギリ。」
くすくす笑うと、涙で潤んだ目が俺を見上げる。
小動物みたいだ。きっと高梨先輩はこの可愛さにやられたんだな。
「ほ、誉君、卒業、しちゃう」
「うん」
「俺、······おれっ、寂しいぃ」
多分、泣き止むのには高梨先輩がいないと無理だ。
俺達にはどうにもできない。
なんとか4人で登校して、講堂に行く前にちらっと3年生の教室を覗いた。
高梨先輩は······クラスメイトと談笑してる。そんな時に申し訳ないけれど、目が合って手を振ってみると不思議そうに首を傾げて廊下まで出てきてくれた。
そこで目を腫らして泣き続けている渡君を見て、ギョッとしてる高梨先輩に匡と優生君と3人で苦笑する。
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