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第738話

「高良は?」 走って行く高良先輩を見ていたのか、東條先輩が不思議そうにやって来た。 「旭陽先輩が産気づいたって連絡があったみたいで」 「そうか。······まあ、どうせすぐに会うしいいか。」 高良先輩と話せなかったことに少し寂しそうだけど、そうだよね、またすぐに会える。 元生徒会の4人は卒業して『はい、さよなら』の関係じゃないと思うから。 「東條先輩はこれからどうするんですか?」 「俺は実家の仕事を······。高梨も高良もそうだろ?」 「みたいです。」 突然どこからともなく泣き声が聞こえてきた。 聞いたことのある声で、声の元を探すと渡君に抱きつかれている高梨先輩が俺達に近付いてくる姿を見つけた。 「だから!卒業しても一緒だって!さっきも言っただろ!」 「わがっでる゛!わがっでる゛けどぉっ!」 泣き続ける渡君を背負ったまま、俺達のところに来て、高梨先輩も「高良は?」と聞いてくるから東條先輩にした説明をもう1度する。 「え、そうなのか······。お祝い持っていかないとな」 「一緒に行く。バラバラに来られた方が迷惑だろうから」 「えー!それなら俺も行きたい!偉成!行こう!」 「うん。いつにする?」 この後の予定をたてる。どうやら先輩達4人で集まる日も計画してるらしい。 「まあどうせパーティーでも会うけどな」と東條先輩が言うと、2人は「そうだな」と言って頷きあっていた。 「松舞」 「はい?」 高梨先輩が真剣な声で俺を呼んで、声と同じくらい真剣な顔で「泰介をよろしく」と言う。 先輩の背中にいた渡君は泣き腫らした目でぼんやりと先輩を見た。 「学校にいる間は見れないから。寂しいって泣きついて来たら面倒見てやって。次に入ってくる新入生から馬鹿にされたら、傍にいてやってほしい。」 「それは、もちろん······でも、なんで俺?俺はオメガだから匡に頼んだ方が······」 「オメガでもなんでも、泰介が信頼してる奴だから頼む。匡にも小鹿にも伝えるけど、まずは泰介の友達第1号のお前。」 「と、友達第1号······!」 嬉しくて、渡君の頭をくしゃくしゃと撫でる。けれどその手は高梨先輩に叩き落とされた。 友達第1号でも気安く触れるなってことか。独占欲丸出しだ。 「痛い」 「悪い。つい手が動いた。」 申し訳なさそうにする先輩。 まあ、許してやらないことはない。

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