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悠介と旭陽 旭陽side
めちゃくちゃ痛くて、何度もやめたいと思いながら、長時間耐えている。
まだ産まれへんの。もう誰か引っ張り出してくれよ。体全部痛いの。我慢できやんの。
「旭陽、よしよし、上手だからね。できてるからね。」
「うっさいわボケっ!」
応援してくれる悠介に暴言を吐く。
腰をずっとさすってくれてたし、たくさんの励ましの言葉をくれたのに。
「ここまで口の悪い旭陽珍しい!ちょっと感動する!」
「くそっ、くそくそっ!」
でも悠介は全く気にしてる素振りはない。
今はそれに対しても腹が立つ。
卒業式やったのに急いで帰ってきてくれた。
それからずっと一緒にいてくれてる。
「後ちょっとだからねー」
「はい、息んでー!」
言われて息むけどまだ出てこやん。
何回もそれを繰り返して、もう本気でやめたいと思い始めた頃、突然すごく体が軽くなった。
え、と思うより先に悠介が泣きながら俺を抱きしめてくる。
「ありがとう旭陽。ありがとう……!」
ギャーギャーと泣き声が響く。
ああ、産まれたんか。
めっちゃ疲れた。もうこのまま眠ってしまいそう。
「女の子ですよ」
看護師さんの腕の中から悠介の腕に移り、少しして俺の隣にそっと寝かされる小さい子。
今俺の中から産まれたばかりの子。
「……っ、ふ……」
痛くて流していた涙が、嬉しさに変わる。
ぎゅっと抱きしめた赤ちゃんはあまりにも小さくて、ああ、俺が守ってあげないとって思う。
「赤ちゃんも、産まれてきてくれてありがとう。」
悠介も泣きながら赤ちゃんに触る。
ぼやける視界でそれを見て、幸せな気持ちに包まれた。
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