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悠介と旭陽
***
そんな日から二年が経ち、最愛の娘は今悠介の腕の中で眠っている。
「うわぁ、可愛い。頬っぺぷにぷにだよ。食べていいかな?」
「あかん。やめて。」
ほんまに食べようと口を開けた悠介を止めて、娘の夕陽 にブランケットを掛ける。
「どうせまだ抱っこしとくんやろ。あとでちゃんとベッド入れてよ」
「わかってるよ。あー、もう、可愛い可愛い。帰ってきてこれは癒される。」
親バカ丸出しのただのバカは鼻の下をでろでろに伸ばして『可愛い』を繰り返している。
時間は夜の九時。これから皿洗いをして……いや、もうこれ明日でええかな。
疲れた。夕陽は二歳になって会話ができるようになってきたから、前よりは随分と楽になった気がするけれど、イヤイヤ期に突入しようとしてるようで、泣くことが増えた。
「旭陽?大丈夫?」
立ったまま何をすることなくぼーっとしていた俺を見て悠介が眉を寄せる。
首を縦に振って、やっぱり皿洗いしてしまおうと食器を重ねシンクに運んだ。
片付け終えて、溜息を吐いているとそっと後ろから大好きな匂いに包まれる。
「仕事ばかりで夕陽のこと任せっきりにしてごめん。」
「……ううん。大丈夫」
「疲れたでしょ。お風呂入った?」
「うん。夕陽と入った。」
お風呂に入れるのも大変。
ほんまに疲れた。そう思ってくるっと振り返り悠介に抱きつく。
「早く風呂入ってきて。ほんで今日は俺の事抱きしめて寝て。」
「うん」
俺の頭を優しく撫でた悠介は、すぐに着替えを持ってお風呂に入りに行った。
悠介が戻って来るのをテレビを見ながら待つ。とは言ってももう目も半分しか開かない。眠すぎる。このままゾンビと化しそう。
十五分くらいで戻ってきた悠介は、俺を見てケラケラ笑ったかと思うと、いきなり抱っこされてベッドに運ばれる。
「もう目が開いてないね」
「……開かへん。もう眠すぎる」
寝転んで、悠介の胸に顔をつける。
背中をポンポン撫でられるとものの数秒で意識が飛んだ。
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