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悠介と旭陽
「実は悩んでることがあって……」
「うん」
優しく髪を梳かれる。
気持ちいい。二人きりの時間も最近は少なくて、こうしてゆっくりすることも無かった。
「夕陽が産まれて嬉しかったけど、お義母さんは女の子やったから不満気やったやろ。」
「……そうだね」
「これで夕陽がアルファやなかったらって考えると、不安で仕方ないねん。」
髪を撫でていた手が止まる。
「アルファかそうじゃないかがわかるのは中学生くらいやろ。もしアルファじゃなくて、ベータやオメガやったら?……それからまた子供作ってってするのは遅いやん。」
「……うん」
「それなら、今のうちに子供、もう一人……」
「そんな考えで作りたくない。旭陽が欲しいって思わないなら嫌だ。俺は純粋に夕陽に妹か弟ができればいいと思う。」
「お、俺やって、思うよ。夕陽に妹か弟かって!でも……でもまた、また俺、お義母さんに落胆されるの嫌やもん……。子供できにくいって言われて、それでも子供ができてお腹痛めて産んだのに……アルファやないからってまた何か言われんねん……。俺だけやったらまだいいけど、夕陽にまで何か言われたらもう無理。」
顔を両手で覆う。
夕陽がお義母さんの言葉で傷付いたら?
アルファじゃないことで虐められたら?
考えるだけで心が痛い。
「夕陽は絶対に傷つけさせない。大丈夫」
「その大丈夫の根拠はなんなんっ!?なんも大丈夫ちゃう!」
「旭陽落ち着いて。夕陽が起きちゃうよ。」
「落ち着いてる!!夕陽まで傷つけたくないねん……っ、あの子が悲しんでる姿は見たくないっ!」
涙が溢れて頬を伝う。
そうしていると寝室のドアが開いてハッとした。
そこから夕陽が出てきて、眠たそうな目を擦りながら俺の傍に来る。
「ご、ごめん、起こしちゃった。」
「まま、泣いてるの?痛い?」
「……い、たくない……」
「泣かないで。夕陽はママのこと大好きだからね。だからね、泣かなくて大丈夫だよ。」
小さい手が俺の頬を撫でる。
かと思えば、ぷにぷにの頬っぺを俺の頬に擦り付けて「大丈夫」ともう一回言ってくれる。
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