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東條彰仁
高校を卒業してから三回目の冬。
二十一歳にして恋人の一人もいない俺に、家族はいつも不安気だ。
けれど仕方がない。最近はマシになったがずっと兄に任していた仕事を俺も請け負うことになった。今まで何もしてこなかったからツケが回ってきて、二年目までは覚えることも多く、外部の人間と会うことも少なかった。
「彰仁」
「……ノックをしろ」
ノックもせず俺の部屋に入ってきたのは兄の彰人。俺の三個上である兄にはもう番がいて、昨年は二人の間に男の子が生まれた。
俺は叔父になったわけだけれど、甥にはまだ二回くらいしか会っていない。
「母さん達が話してたぞ。彰仁はいつ番を持つのかって。」
「いつもの事だろ。」
「……折角白樺に行ったのに、どうして番を見つけなかった。赤目君も高梨君も高良君も、番が出来たんだろう。高良君に関してはもう子供もいるじゃないか。」
「うちはうちよそはよそ案件だろ」
「真面目に聞け」
睨まれてわざとらしく肩を竦める。
至って真面目なのに、面倒臭い。
「いい加減に番を持て。相手に拘らないなら俺が見つけてくる。」
「余計なお世話だ。」
兄を部屋に置いたまま、服を着て退室した。
そして家からも出ていく。
時間は夜の十時。目的もなく道を歩いて、そのうち賑やかな繁華街に出た。
さて、どうしようか……と辺りの店を見回し、雰囲気のいいバーに入る。
カウンター席に座り、マティーニを頼む。
「──お兄さん、アルファ?」
声を掛けられ、顔を上げる。
目の前のバーテンダーの男が目尻を下げて聞いてきた。あまりにも顔が整っていて少しだけ驚く。
「ああ」
「やっぱり。何だかオーラが違うからそうかなって。番はいるんですか?」
「……いません」
「いないんだ。格好いいのに。」
カクテルが置かれ、グラスに口を付ける。
美味い。
じっと俺を見ていたバーテンダーに「美味しい」と言うと微笑む。
「お兄さん、お名前は?」
「彰仁」
「彰仁さん。俺は優一 です。」
お互いに名乗り、その後は他愛のない話をしながら時間を過ごす。
一時間ほどそこで過ごして、そろそろ帰るかと会計にカードを出す。
「彰仁さん、また来てくださいね。」
「……また来ます。」
そう言って店から出た。
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