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東條彰仁
仕事が終わり、着替えに裏に入った優一さんを待つ。
十分程して出てきた彼。一緒に店を出て、別の飲食店に入る。
「ごめんなさい。俺お腹すいてて。」
「賄いないんですか。」
「そういう条件で雇ってもらってるから仕方ないです。」
オメガだと雇う側もリスクがある。
発情期には一切出勤できないし、客との間のトラブルも起こりやすい。だからそもそもオメガを雇わないところも多いし、雇ったとしてもベータやアルファと比べると待遇は悪い。
「……辞めようと思わないんですか」
「辞めても他に働くところがないし……。でも正直きついです。俺ね、今でもアルバイトで……もう今年三十になるのに。」
「俺の九歳上なんですね。」
「じゃあ、彰仁さんは二十一?」
頷くと、少し困ったように笑う。
「その年で結婚を迫られるのか。まだまだ遊び足りないと俺は思うけど……」
「まあ、でも、遊ぶより仕事している方が落ち着きます。その方が気持ちが楽。」
「好きな人いないの?」
「いません。」
そう言うと優一さんは「ふぅん」と言って俺をじっと見る。
それから少し何かを考えて、優一さんの口が動く。
「俺はどうですか?オメガだし、彰仁さんが望むなら子供だって産める。歳は……若くはないけど、でもその分彰仁さんを支えてあげることが出来ると思う。」
「……好きなわけでもないのに」
「とりあえず恋人がいれば、結婚を迫られることは無くなるかも。一回試してみませんか?嫌になったら、いつでも捨ててくれて構いません。」
小さく首を傾げる彼。
俺には得しかない話。
そうだ。嫌になればやめればいいだけだ。
「……わかりました。試してみます。」
「よかった……。これで受け入れて貰えなかったらもう二度と会わないって言われそうで怖かったんだ。」
連絡先を交換して、二日後に早速母さん達に紹介することになった。
その為にお互いの事を話し合う。
「へえ、じゃあ白樺に通ってたんですね。」
「はい。……あの、優一さん。今更なんですけど敬語やめてください。優一さんの方が年上だし……」
「え、でも俺はオメガだから……」
「関係ないです。」
キッパリ言うと、困惑した様子で頷いてくれた。
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