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東條彰仁
優一さんは中学まで生まれた地元で家族で過し、卒業してからは地元を離れて一人暮らしをしながら高校に通ったらしい。
兄と姉がいたらしく、二人とは仲が悪かったため殆ど追い出される形だったとか。
高校は人と関わらなかったから特に虐められることも無く、寧ろ親友といえるような人もできた。けれどその人はアルファで、ある日事故が起きて項を噛まれ強制的に番になった。
「暫くはお互いに仕方の無いことだって割り切ってたんだけど、そのうち暴力を振るわれるようになって……。『やめて』とか『嫌だ』とかって反抗していたら、相手がもう要らないって言うから、高いお金を払って番を解消したんだ。」
「お金は、誰が?」
「折半だよ。両親に相談したんだけどお前のまいた種だろって言われて、貸してくれなくて、今もコツコツ返してる。」
番を解消するとオメガには大きな負担がかかり死んでしまうケースが殆ど。
それを防ぐ為に医療に頼れば莫大な金がかかる。
けれど、負担がなくなる訳では無い。
「そのおかげで発情期が来なくなった。でもね、それは精神的なものなんだって医者が。本当に望むなら発情期は起こって子供もできるらしい。」
「……わかりました。話しにくい事なのに、話してくれてありがとうございます。」
「ううん。彰仁君は不思議だね。アルファなのに、オメガの俺に気を使ったり、敬語じゃなくていいって言ったり……」
「オメガだからって差別の対象にはならないです。俺の友達にはオメガもいる。でも俺と何も変わらない。同じ人間です。」
またさっきみたいな困惑した様子を見せる優一さん。
暴力を振るわれていた時、もしかするとひどい言葉を言われていたのかもしれない。
そのあとも少し話をして、その日は解散。
二日後に待ち合わせをして、優一さんを家に招く。
朝になったら、母さん達に伝えないと。
紹介したい人がいる、と。
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