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東條彰仁
***
あの日朝になって母さん達に報告すると、口を両手で覆うほど驚いて、目に涙を貯めて喜んでいた。あまりにも大袈裟だと思う。
二日後になった今日。
車で待ち合わせ場所に向かうと、緊張した様子で立っている優一さんがいた。
窓を開け、声を掛けると驚いた様子で走ってくる。
「ごめんなさい。待ちましたか」
「あ、いえ……立派な車だったから驚いて……」
助手先に座った彼がシートベルトを着けたのを確認して、車を発進させる。
「手土産何がいいかわからなくて、ケーキにした」
「そんなのいいのに。でも母さんは特に甘いものが好きだから喜ぶと思います。ありがとうございます。」
「よ、よかった……」
暫くして家に着いた。
先に降りた俺とは違い、緊張した様子の優一さんは助手席から降りることなく座ったままだ。シートベルトも外していない。
ドアを開けてシートベルトも外してあげて手を差し出すと、そっと手が重ねられた。
「大丈夫ですから、深呼吸してください。そこまで緊張していたら逆に怪しまれますよ。」
「……俺から言い出したのにごめんね」
「気にしないでください。はい、深呼吸して。」
スーハーと深く呼吸をした優一さんは小さく微笑んで漸く車から降りた。
手を繋いだまま、家に入る。
両親がそれを迎え入れて、優一さんが母さんにケーキを渡すと、母さんは嬉しそうにしていた。
部屋に移動して、両親向かい合いテーブルを挟んだ席に座る。隣には優一さんがいてさっきより緊張は解れたのか母さんに話しかけられてもオドオドせずに返事をしていた。
「じゃあ、改めて……。俺の恋人の優一さん。」
「栗原 優一です。」
肝心なことを忘れていた。
優一さんの苗字。今ここで母さん達と同じタイミングで知ったことに少し悔しさを感じる。
「今年で三十歳。俺の九つ上。バーで働いていて俺が客としてお店に行って知り合った。」
出会った経緯を説明し、一度話が区切れると母さんは聞きにくそうにしながらもハッキリと優一さんに問いかけた。
「あの……性別は」
「あ……オメガです。」
優一さんも少し言いにくそうにしながら答える。
母さんは優一さんがオメガで子供ができるとわかったからか、あからさまに頬を緩ませた。
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