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栗原優一

彰仁君は綺麗な顔をしている。 俺自身もオメガだからか整ってはいると思うけれど、俺が今まで出会った人の中でダントツに顔がいい。 パソコンを見る姿も、時々見せる顰めっ面も、どれも様になっていて羨ましい。 「用事がないから、長居しちゃ迷惑だから帰るよ」 それに夜にはアルバイトがあるから、少しだけ眠りたい。 「優一さん」 「はい?」 腰を上げると鋭い目に射貫かれて動けなくなってしまう。 「アルバイト、辞めませんか。」 「や、めません」 「何で。借金は返済した。」 「借金は無くなっても、日々の生活費を稼がないといけないからね。」 形のいい眉を寄せる彰仁君は、ハッと閃いたように目を大きく開いて俺に近づいてくる。 「アルバイトは辞めて、正社員としてうちで働きませんか?」 「え……」 「簡単なパソコンの操作はできますか?」 「できます……けど……」 「よし。ちょっと待っててください。」 彰仁君はすぐに部屋を出て行ってしまって、俺はぽつんと広い部屋に残される。 彼はなんというか……思い立ったらすぐに行動するタイプなのかもしれない。 行動力があっていいと思うけれど、少し相談して欲しい部分もある。 二十分程で戻ってきた彰仁君の手には一枚の紙があった。 それをグイッと目の前に差し出されたので預かって内容を見る。 「……月給、二十六万円?」 「残業代は別で支給します。福利厚生もうちはしっかりしてると思いますよ。」 こんな大金、初めて見た。 オメガに支払われる給料はそもそも少なくて、残業代なんて無い。発情期で休むんだからサービス残業なんて当たり前だろって言われるくらいなのに。 福利厚生だって彰仁君が言った通り、とても充実している。 こんないい採用条件は滅多に無いと思う。 「で、でも、本当に簡単な事しか……」 「いいんですよ。少しずつ覚えていってくれれば。」 「発情期だってあるし……」 「問題無いです。」 俺なんかがこんな好条件で受け入れられていいのだろうか。 「優一さんがやりたいと思うかどうかです。今は性別のことは忘れて。……今すぐじゃなくてもいいけど」 俺がやりたいかどうか。 そんな選択をさせてもらえるなんて思っていなかった。 彰仁君はとても優しい人だ。 「ぁ、や、やります」 「ありがとうございます」 お礼を言うのは俺の方なのに、彰仁君に先を越されてしまった。

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