758 / 876
栗原優一
彰仁君が俺をちらっと見て、口元を片手で覆う。
「彰仁君……?」
「……そうか。わかった。」
彰仁君は深く息を吐き、俺の前で仁王立ちになった。
なんだか威圧感があって少し怖い。
身を引くとすぐさま肩を掴まれた。
「優一さん」
「ひっ、は、はい……っ」
掴まれる力が強くて痛い。
もしかしてそんな勘違いを起こすのは図々しいって怒られるのかもしれない。
「優一さん。俺、気づきました。」
「な、んでしょう……?」
「優一さんが困らないように、不自由がないように、傷つかないようにって、意識してしまうんです。……これは好きってことですよね。」
彰仁君の言葉に息を飲む。
好きって、それは……ごめんね、俺にはわかりません。
「優一さんのことを大切にしたいんだと思います。」
「……ぁ、え……そ、うなんですか……?」
「はい。決めました。優一さん。偽装恋愛はやめましょう。」
「やめましょう……?」
まただ。また猛スピードで世界が進んでいる。
「はい。本当に付き合いましょう。ね?いいですよね?」
「えぇ……?」
「優一さんがいいなら番にもなりたい」
「ちょ、ちょっと待って!?」
何だ。何が起こっているんだ。
付き合いましょう?番になりたい?
脳の処理が追いつかなくて混乱する。
「ダメなんですか?」
「ダメじゃないけど!」
「じゃあいいじゃないですか。頷いてください!」
「わかったわかった!」
そう言ってからハッとして目を見開く。
間違えた。勢い余って言ってしまった。
「はい、じゃあこれからは本当に恋人です。決まりです。」
「強引だなぁっ!」
「そうじゃないと貴方はまた自信がなくて悩むでしょう?」
そう言われてしまえば何も言えなくて黙り込む。
「貴方が自信を持てるように、俺と付き合ってください。」
「……なんで彰仁君と付き合う事で自信を持てるようになるの?」
自分勝手なことを言う彰仁君。
そう思って彼を見ないまま吐き捨てるように聞く。
答えが気になって、ジロっと彰仁君を見ると、キョトンとしている。
「え、そんなのわかりきったことでしょう?だって、俺に愛されるんですよ?」
その強気なセリフに思わずドキッとする。
ふっと笑いが零れた。
「……君ほどの自信家を俺は知らないよ」
自信満々に微笑んでいる彰仁君に胸がキューっとなって、『ああ、この人に愛されたいな』と心から思った。
栗原優一 了
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!