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背伸び
ショッピングモールの一階にある大きなスーパー。夕陽はお菓子を選んで俺の持つカゴの中にポイっと放り込む。
「じゃあ次はママに頼まれたもの探しに行こうか」
「夕陽が見つける!紙ちょうだい!」
旭陽に言われた物を慌てて書いた紙を夕陽に渡す。
「あのね、夕陽はお姉ちゃんになるからね、頑張るの!」
「……お姉ちゃんになるの?」
「うん!お姉ちゃんだから、ママが買ってきてねって言ってたの、ちゃんと買えるよ!」
お姉ちゃん……?
確かに、旭陽が夕陽にお姉ちゃんになりたいかと聞いた時に、夕陽はなりたいと答えていた。
それはもう三ヶ月ほど前のこと。あれからすぐに旭陽の発情期が来て一週間程ヤリまくったわけだけど……。
もしかして旭陽の体調が悪いのは妊娠しているせい?
「夕陽はお姉ちゃんになるの?ママのお腹の中に赤ちゃんいるの?」
「えー、パパ知らないのぉ?赤ちゃんいるよ?ママのお腹でね、元気いっぱいなんだよ!」
呆然とする俺を他所に、夕陽は牛乳を取ってカゴに入れた。
がくんと腕が重さで引っ張られる。
「パパ!チーズ!」
「チーズ……ああ、こっちだね」
「パンもだって!」
「パンはあっちだよ」
メモには『夕陽の好きなパン』と書いていたので、夕陽は一生懸命になって十五分程経って漸くチョコパンをカゴに入れていた。
「さ、帰るよ。」
「赤ちゃんのご飯は?」
「ママがご飯を食べたら、それが赤ちゃんに届くんだよ。」
「そうなの?夕陽もあげたいなぁ」
「赤ちゃんが産まれたらあげようね」
夕陽と手を繋ぐ。
途端に走り出そうとするのを止めた。
子供はどうしてこんなに走りたがるんだ。
「お姉ちゃんだからね!赤ちゃんにいい子いい子するんだよ!かけっこもする!」
俺を見上げて満面の笑みを見せる夕陽。もしかすると来年にはこの子に妹か弟がいるかもしれないなんて……我が家に天使が増える。それは最高だ。
「帰ったらママに赤ちゃんのこと教えてあげようか」
「ママも赤ちゃんいること知らないの?」
「多分知らないね。」
「じゃあ早く帰ろう!パパ早く!」
促されて急いで会計をし、二人で走って車に乗った。
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