769 / 876
背伸び 旭陽side
現実と夢の狭間を行ったり来たりして逆に疲れた。
ベッドで寝転んだままぼんやり天井を眺める。
家には自分以外に誰も居ないから、時計の音が聞こえるだけでとても静か。
あともう少しで可愛い娘と大好きな旦那が帰ってくる。そろそろ起きないと。あまりに眠っていると悠介は過保護やから、心配して病院に行くと言いかねない。
ただ眠いだけ。子育てであまり眠れてなかったからそのせいやな。
「よいしょ……」
起き上がってググッと伸びをする。
もう時刻は十一時半で、そろそろ帰ってきてもらわないと昼ご飯が遅くなるんやけどなぁ……と思った時、玄関の開く音がした。
ベッドから降りて玄関まで行き「おかえり」と言うと、いそいそと靴を脱いだ夕陽が笑顔で飛びついてくる。
「ただいま!ママはしんどくない?大丈夫?」
「大丈夫。ありがとうね。手洗いとうがいしておいで」
「うん!」
元気よく返事をしたのに、そのまま買ってきた物の紹介が始まった。
「これはねぇ、赤色でね、青と黄色もあってね……」と楽しそうに笑顔で話す姿はどう見ても天使や。相変わらずの可愛さに驚く。
「たーだいま。」
「おかえりぃ」
そんな俺を、夕陽よりも随分と大きい悠介が包み込むようにして抱きしめてくる。
何でか笑顔で、その顔が夕陽とあまりにもそっくりやったから、思わず両手で頬をバチンっと挟んだ。
「いたっ!?」
「夕陽そっくりやん!」
「え、あ、本当!?俺夕陽とそっくり!?」
「笑った顔、瓜二つやわ」
ここにも天使がおった。
幸せな気持ちやったのに、大きい天使の手には大きな紙袋とスーパーの袋が握られている。
「……なんやこの紙袋」
「あ、これね、俺とそっくりの可愛い娘の服だよ!」
「……何着買ってん。いくらしてん。言うてみぃ」
この馬鹿は夕陽を連れてどこかに出かける度に、『似合う』『可愛い』と言って服を何着も買ってくる。おかげで夕陽のクローゼットはもういっぱい。そろそろフリーマーケットに出品するか本気で悩んでいたところやのに。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!