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背伸び
「えっと……三着ほど……」
「前に言うたよな?出かける度に買ってくるなって。クローゼット見せたよな?」
「……すみません。でも、本当に可愛いんです。あ、写真撮ったから見て」
慌ててスマートフォンを出した悠介。バッと見せられた画面には、モデルに負けず劣らずポーズを決める夕陽が写っていた。
「……え、可愛い」
「そうでしょ!?これは買うしかないでしょ!?」
他の写真も見せられて、俺たちが話をしている間に手洗いうがいを終わらせ、わざわざ玄関に戻ってきた夕陽を抱きしめる。
「夕陽はモデルになれるわ。確信した。可愛さが群を抜いてる」
「ママも可愛いよ」
「ありがとぉ」
抱っこして、そのままリビングに連れて行く。
買った物は悠介が直して、俺は昼ご飯を作り十二時ぴったしに全員でご飯を食べる。
「ママ、ピーマンやだ」
「食べなあかんよ」
「やだもん。パパ、あーん」
「あー、……夕陽、自分で食べようね。」
夕陽の『あーん』につられて口を開けそうになった悠介を睨むと、視線を逸らして口を閉じた。
「でもね、ママが食べないとダメだよ。赤ちゃんのご飯になるんでしょ?」
唐突にそんなことを言われて首を傾げる。
赤ちゃん?何の話やろうか。
「赤ちゃんはおらんから、ママが食べなくていいの。」
「いるよ?」
「……赤ちゃん?」
「うん。ママのお腹の中にいるよ」
目を夕陽から自分のお腹に向ける。
赤ちゃんが、俺の中に……?
悠介を見ると穏やかに微笑んでいた。
「夕陽。ママのお腹の中に赤ちゃんおんの?わかるの?」
「うん!早く夕陽に会いたいよって!」
赤ちゃんができるのは嬉しいけど、本当に?
喜びたいけど、本当かどうかわからなくて素直な気持ちになれない。
困惑していると「旭陽」と優しい声で名前を呼ばれた。
「病院、行ってみる?」
「……い、いや、まずは、えっと……検査して……」
「うん。」
「ほんで……ほんでもし、赤ちゃんできてるって、でたら……」
赤ちゃんができていたら。
そんな幸せなこと滅多にない。
「そしたら、一緒に病院ついてきてくれる?」
よく似た顔の二人は大きく頷いて、夕陽は自分がもっているフォークにピーマンを刺していることを忘れて口の中に放り込んだ。
途端に表現し難い表情をした夕陽に俺と悠介はケラケラと笑う。
「うぅ……お姉ちゃん、なるから……の、飲み込む……」
「頑張れ夕陽!偉いよ!いい子!」
目を閉じて嫌そうにもぐもぐと口を動かす夕陽と、それを応援する悠介の姿。
ここにもう一人家族が増えるのかも。夕陽はきっと優しいお姉ちゃんになって、弟か妹かの世話も率先してやってくれるんやろうな。
そう思うと胸が暖かくなって、そっとそこに居るかもしれない赤ちゃんを想ってお腹を撫でた。
夕陽は結局ピーマンを飲み込むことができず、吐き出して「こんなに緑なのがダメなんだ……」と落ち込んでいたけれど。
背伸び 了
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