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朝帰り事件 千紘side
偉成が大学四年生になった。
このまま行けば来年の春には卒業する。
俺は相変わらず偉成と一緒に暮らして、毎日幸せに過ごしている。時々喧嘩をしても、いつの間にか一緒に居て仲直りをするという繰り返し。
そんな毎日の中、事件が起きた。
偉成が大学から帰ってこないのだ。
夕方頃に同じゼミの友達とご飯に行くと連絡があった。でもそれきりスマートフォンはうんともすんとも音を立てない。
『遅くなりそうだったら連絡をする。』と言っていたくせに。
今はもう夜中の二時。電話を掛けてもメッセージを送っても反応は無くて、何かあったのかなと不安になる。
偉成がいなくなった不安に駆られ、十数回目の電話を掛けた時、漸く繋がった。慌てて名前を呼ぶと帰ってきたのは女の人の声。「さっきからうるさいなぁ」と文句を言われる。
「えっ、と……?偉成は……?」
「いっせー君は、隣にいまーす!寝てるよ!」
隣にいる。女の人の隣で寝ている。
その事実は正直キツかったけれど、ただ眠っているだけだろうから気にしないでおく。
「えっとー……あんたは……ちひろ?ちひろであってる?」
「はい」
スマートフォンに表示されている名前を読んだのか、確認された。女の人は何が楽しいのかケラケラ笑う。
「いっせーくん!ちひろだよ!ちひろから電話!おーい、おーい!起きて!起きなさーい!」
気を利かせて偉成を起こそうとしてくれているその人。けれど、偉成からの反応は無いらしい。
「いっせーくん!」
一際大きな声がスマートフォン越しに聞こえた。
あまりの大きさに苦笑を零す。
「……うるさい、切れ。」
偉成の声が聞こえてきたと思えば、冷たい声で通話を切るように女の人に言った。
女の人はそれに従って通話を切る。
「…………」
何も映さない画面を数秒眺める。
あの女の人は大分酔っていたと思う。
偉成もきっと沢山お酒を飲んで酔っ払ったんだ。それで眠たくて寝てしまった。それだけ。
きっとそれだけ。
そう思うことにしたけれど、自分が思っていたよりも悲しかったみたいで、胸がきゅっと締め付けられる。それを無視してスマートフォンを静かに置き、電気を消して一人ぼっちの広いベッドで眠った。
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