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朝帰り事件
夕方の四時になって偉成が帰ってきた。
洗濯物を畳んでいた俺は「おかえり」と声を掛ける。すると戸惑いながら「ただいま」と返事をくれた。
あとはいつも通り。
何も特別な事は言わないし、しない。
偉成は洗濯物を畳み終えた俺の傍に来て「あの」と声を出す。
「ちょっと、話がしたい……です。」
「はい」
偉成から不安がっている匂いがする。
正直、そんな匂いをさせていることは滅多にないからクンクン嗅いでおく。
「ま、まず、何の連絡もしないで朝に帰ってきた事……。遅くなりそうだったら連絡するって言っていたのに、しなかった。……ごめん」
「うん」
「あと……夜中に、連絡をくれただろ……?」
「したね。」
あの女の人の声を思い出して、正直嫌な気持ちになる。
「正直俺は酔い潰れてあまり覚えてないんだ。店で飲んで、朝起きたら同じゼミの友達の家にいて……。電話を取ったのは女だったか……?」
「うん。偉成は寝てるって。でも起こそうとしてくれたんだ。でも偉成は『うるさい、切れ。』って言ってそれで電話が切れちゃった。」
「……本当にごめんなさい」
深く頭を下げた偉成に驚く。
「泊まったのはその女の家じゃなくて、男友達の家で、決して二人きりじゃなかった。」
「別に女の人と二人きりでも浮気を疑ったりはしないよ。」
「……そうなのか?」
「うん。だからって頻繁に二人きりでどこかに行ったりされちゃ嫌だけど」
「そんなことしない!」
慌ててそう言った偉成は顔を上げる。泣きそうな表情だ。
「しない。絶対にしない。」
「うん、わかってる。」
「……ごめんなさい」
「いいよ」
何だか申し訳ない気持ちになってきた。
苦笑を零すと、偉成の気持ちが少し落ち着いたのか、上がっていた肩から力が抜けた。
「これからはちゃんと連絡してね。連絡さえあれば安心できるから。」
「……怒ってないのか」
「怒ってなかったように見えますか?」
笑顔を向けるとピシッと固まった偉成。
首を左右に振ってまた「ごめん」と謝る。
「俺も謝らないといけないことがある。」
「え……?」
寝室に行きクローゼットの前に置いていた沢山の紙袋を偉成の前に置く。
「腹が立って買っちゃった」
「……」
引きつったような笑顔を見せる番は、怒ることなく頷いた。
「俺が悪いから。」
「でもあまりにも買いすぎた。ごめんね。」
「いいよ」
そうして朝帰り事件は幕を閉じた。
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