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愛されたい

「あ、の……彰仁君」 「はい」 彰仁君に促されて、彼の膝の上に向かい合って座る。顔が近くて恥ずかしい。 「あの……あ、あの……」 「はい、何ですか?」 好きって伝えるだけなのにこんなに緊張するなんて。 右手を取られ、彼の左手に握られたかと思うと、指が絡み合い恋人繋ぎになった。 「ちゃんと聞きます。焦らなくていいので教えてください。」 「……彰仁君はどうしてそんなに優しいんだろう?」 「愚問ですね。貴方が好きだからですよ。」 自然な流れで好きと言われて心臓がうるさく鳴りだした。 「あ、あの、俺、俺も……」 三十目前にもなると『好き』って言うのすら恥ずかしい。 でも、彼は伝えてくれるし、俺だって伝えないと。 「す、好き、です……」 「……それが、俺に言いたかったこと?」 「……はい。ごめんね。この歳で好きって伝えるのは恥ずかしくて」 「嬉しいです。それに……貴方は本当、なんて可愛い人なんですか。」 「うっ!」 強く抱きしめられて苦しかったけれど、俺も彰仁君の背中に手を回す。 「彰仁君の事がとてもとても好きみたい。……鬱陶しいかな」 「そんなわけないでしょ。俺も大好きですよ。」 嬉しくなって頬が緩む。 素敵な人だ。やっぱり俺は彼に番になってほしい。 「番になってほしいなぁ」 「え?」 その思いが口に出ていてビックリした。 まだ伝える気はなかったのに。 「番に?いいんですか?本当に?」 「ぁ、え……は、はい。番……うん。なってほしい……」 でも、俺には発情期が来ない。 なってほしいけど、その為の条件が揃わない。 「でも、発情期がこないから……」 「大丈夫ですよ。きっと来ます。」 「……ごめんね、こんな壊れた体で」 「どこも壊れてないですよ。」 ホッと安心して彰仁君の肩に顎を乗せて目を閉じる。 「彰仁君、発情期じゃなくても、君が俺に触れたいって思ってくれたなら、その時は教えてね。」 「……いいんですか」 「もちろん。ただあの……俺もう三十だから、あんまり無理はできないと思うし、君も満足できないと思うんだけど……」 「そんな事ないです。でも、優一さんが辛くならないようには努力します。」 「ありがとう」 トクトクと聞こえてくる彰仁君の心臓の音。 それが眠気を誘って、いつの間にか彼の上で眠ってしまった。

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