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執拗い人

「いい物件があるよ」 「へえ。」 「俺!」 「却下」 馬鹿みたいな提案に即刻首を振る。 驚いた表情をした宮間だけど、何でお前が驚くんだ。 「何で!?こんな従順で犬みたいなオメガ他に居らんよ!?」 「お前うるさいもん」 「うるさない!なあ!なあって!」 「あー、もう、はいはい。わかったから静かにしろよ」 腕を掴まれグラグラ揺らされる。 それがぱっと離されて、暖かい日差しが遮られた。 「な!付き合って!」 「お前俺のこと好きじゃないだろ。付き合ってって……遊び相手だって話してたし。ぶっ飛びすぎ」 「いいやん!遊ぶんも付き合うのも一緒やん!」 「ばーか。小学生からやり直せ。」 「バカ!?バカって言うた!?」 「あー、うるせー!」 立ち上がり生徒会室に戻ろうとする俺の後ろを引っ付いて歩く宮間。 「あかん?あかんの?」 「……執拗い」 「うん。わかってんねんけど、だって俺あんたのこと好きやで」 「はあ?」 「話しとって気づかんかったん?鈍感やな。」 足を止めて振り返ると宮間は俺を見上げていた。 首を傾げてさっきまでの会話を思い出すけど、どこで宮間が俺のことが好きだと判断できるんだかはわからない。 「なあお願い!お試しでもいいから!付き合ってみて!」 「……お前と?」 「俺と!」 「却下」 そう言ってまた生徒会室に足を向ける。 後ろから「何で!?俺こんな可愛いのに!」と言いながら追いかけてくるのが犬みたいで面白くて、気がつけば俺は口角を上げていた。 「寒沢先輩!なあって!」 「うるさい。戻るぞ犬」 「犬!?今度は犬なん!?」 キャンキャン鳴くチワワみたいなそいつは、生徒会室に着いてからも俺の横を陣取り大きな目で訴えかけるように見てきたから、仕方なく一週間だけお試しで付き合ってやるのも悪くないかもな、と思った。 執拗い人 了

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