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お試し期間

お試し期間の間、俺はどこまで行動を許されるんやろう。 例えば、キスしていいんかな。聞くのは恥ずかしいけど聞かないとわからへん。 「キスは?」 「は?してえの?」 「……したい」 顔を上げて「あかん?」と聞けば、数秒考えた先輩。不意に俺を見て首を傾げる。 「初めて?」 「ううん。キスは初めてやないよ」 「じゃあいいよ」 初めてやったらあかんかったんやろうな。 この人は自分の事を汚いと思ってるように見える。やからそんな自分に初めてを捧げるのは可哀想やって思ってる。 残念ながら俺はキスは初めてやないから、らっきーやったんか?と思いながら唇を重ねた。 たったそれだけやのに満たされるような感覚がする。 「もう一回」 「はいはい」 もう一回と言いながら、何度も唇を彼のそれに合わせた。満足して腕にまたギュッとしがみつく。 「もう満足した?」 「うん!」 「おー、よかったな。」 頭をポンポン撫でられる。 嬉しいけど、この人、お試し期間で恋人同士やのにそういう目で俺のことを全く見てくれへん。それがちょっと物足りない。 「先輩、俺は今先輩の恋人です。」 「期間限定のな」 「ちょっとだけそういう目で俺のことを見ませんか?」 「……期間限定で?どうやって?これが終わったら元通りなんだぞ?」 「うー……」 「あんまり踏み込んだことしてると、元に戻った時何をするにもやりにくいと思うけど。」 ううう……戻りたくない。 出来ることならこのまま、お試しじゃなくて付き合いたい。 「元通りにならなきゃいいんですよ。」 「……そんなに言うなら一週間で俺がお前から離れられなくしてみろよ」 「え……」 「言っとくが俺は今まで誰も好きになったことがない。それでもお前が俺と付き合いたいって言うなら、俺をお前から離れられなくしてみろ。」 まさか。そんな事を先輩から言ってもらえるなんて。 「そ、それはどこまでしていいの!?」 「どこまで?……キス?」 「エッチは!?」 「バカ。それは無しだよ」 呆れたように俺の頭を叩いた先輩。 禁欲生活だって言ってたくせに、やっぱりそこは無しなんだ。

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